私の仲間と会いませんか?
心療内科の待合室で座っていると、背後から声をかけられた。
「ころりさん」
ドキッとして振り返ると、そこには穏やかな笑みを浮かべた美智子さんがいた。
美智子さんとは、以前この病院で知り合いになり、初対面からライン交換をしてしまった人だ。
(▶人の悩みを聞くのが得意だと言う人)
あれからも1、2回ラインが送られてきたが、私はこれ以上距離を詰めるのが重く、当たり障りのない返答をするのみで、どこかで一線を引いていた。
それが文面からも伝わったのか、いつの間にか美智子さんからは連絡が来なくなっていた。
なので久々に顔を合わせるのは気まずかった。
だが仮面を被るのが得意な私。
何も気にしてないような顔をして、「あ、お久しぶりですー」とワザとらしく明るい声を出した。
美智子さんも以前と同じく穏やかな優しい声で言った。
「ころりさんにまたお会い出来て良かったです。私、ラインを送り過ぎたかな…って気になっていて。ご迷惑でなかったですか?」
そう聞かれて「迷惑です」と答えられるはずもなく、
「いえいえ、そんな。嬉しかったです」と、心にも無い事を言ってしまった。
そして美智子さんは私の隣に座った。
悪い人ではない。優しいし私を傷付ける事もなさそうだ。なのになぜか私は内心、「早く診察の順番が来て欲しい…」と思った。
しばらくは体調の話や天気の話をしていたのだが、ふと美智子さんが言った。
「ころりさん、良かったら今度私の仲間と一緒に会いませんか?」
「仲間?」
「私、いつも助けてもらっている仲間がいるんです。きっところりさんも皆に気に入られると思うので」
どんな仲間なのか、どうして私を誘うのかは分からなかったが、こういう距離感の近さが苦手だと思った。
私と彼女はただの患者同士。
心療内科で一度会っただけの関係だ。
なのにどうして「仲間と会いましょう」となるのだろう。
私は重くなり、
「すみません、最近体調も良くないので…」と断った。
すると美智子さん、
「そういう事も相談出来る人達ですよ」と押してくる。
その時、看護師に私の名前が呼ばれ、私は彼女から解放された。
診察が終わりビクビクしながら待合室を覗いたが、彼女の姿は無かった。
私はそのまま逃げるように病院を出た。
その後、彼女からの連絡は無い。
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