自分の行く先
昨夜もよく眠れず、目を覚ます為にコーヒーを飲みながらぼんやりと朝の情報番組を見ていた。
すると家の電話が鳴った。
また実家の母か。
そろそろ電話がある頃だと思っていた。
居留守を使うかどうか迷っているうちに留守電に切り替わってしまい、そのままメッセージも無く電話は切れた。
私は立ち上がり電話のナンバーディスプレイを確認に行った。
するとそこには母ではなく、見知らぬ番号が表示されていた。
誰だろう?と少し気になったが、それよりも母で無かった事にホッとした。
そしてそれから30分後、また電話が鳴った。
今度はすぐにナンバーを確認した。すると先程の見知らぬ番号だ。
「はい」
電話に出て見ると、相手はいきなり話し始めた。
「私、〇〇の佐藤ですけど、今日の事で…」
その人は地名と名前を名乗ったが全く知らない人だ。明らかに間違い電話だと思い、
「どちらにおかけですか?」と私は聞いた。
すると電話の向こうから、「〇〇の佐藤です」と繰り返し名乗られてしまい話が通じない。
「いえ、何番の電話番号におかけですか?」
そう聞き直すと、「今この番号よ」と言うばかり。
相手の声と話し方から高齢者だと分かった。想像するに80歳以上のお婆さん。
その後、「電話番号が間違っていますよ」とどうにか説明し、ようやく理解してくれたところで電話を切ってくれるかと思えば、そのお婆さん、
「どうしましょう?どこにかければいい?」と私に聞いた。
いや、ちょっと、そう聞かれても困る。
だが相手は認知症という訳でもなさそうで、話を聞いているとどうやらいつも世話になっている介護施設に電話したいのだが、その番号がうちの番号になっていたらしい。介護施設名もはっきり分からない。
「あの…ご家族か誰か傍の方に相談されては?」と私が言うと、「誰もいない」と言う。どうやら一人暮らしらしい。
えー、どうしよう。
こんな場合はどうすればいいのだろう。市に連絡するのか、まさか警察?という事でもないか。
そもそも間違い電話を受けただけの私が口出しする事なのだろうか。
相変わらず優柔不断な私がオロオロと迷っている間に、そのお婆さんは「失礼しました」と言い、電話は切れてしまった。
大丈夫だろうか。
一人暮らしの老人。まるで自分の行く先を見たような気がした。
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