家に消火器を置く
「消火器を家に置いていないなんて!」
と、義母に驚かれた。
義母が驚くのも当然か。恥ずかしながら私は結婚して以来、消火器というものを家に置いた事が無い。
そのうち買おうかな…何年もそう言いつつ現在に至る。
身近な主婦ともそんな話になった事はなく、他人が自宅に消火器を置いているのかどうかさえ気にした事も無かった。
義母があまりに「常識がない、よくそれで今まで生活していたわね」と呆れて説教された為、ネットで検索すると確かに普通は皆家に置いている様子。
「息子も何も言わなかったの?」と義母の聞かれ、そう言えば夫も無頓着だったと改めて気付いた。
「夫婦揃って……心配だわ」
この事がきっかけで、また義母にしばらく口出しされるな…とため息が出た。
するとさっそく義母が、「今から買いに行きましょう」と言い始めた。
「大丈夫です、自分でまた後日買いますから」と慌てて言ったが、既に義母は立ち上がり出かける準備を始めていた。
「お義母さん、今日の帰りにでも自分で買いますから」
義母の背中に向かって言ってみたが、
「ダメよ、そんな事言ってまた忘れたらいつになるか分からないでしょ」と言われた。
すっかり信用を失っているらしい。
ホームセンターに着き、歩くのは遅いがなぜか義母はウキウキした様子で消火器売り場まで行った。
実家の母も同じだが、母親というのは子に教えたり指示したりするのが快感なのだろうか。義母はずっと上機嫌で、
「ほら、こんなにたくさん売っているでしょ?この大きさにしなさい」と購入する消火器まで決めた。
私が従い、消火器を持ってレジまで行くと、なんと隣にいた義母が財布から金を出した。
「これで払いなさい」
「え?自分で払いますから!」
何度か押し問答したが、義母は強引に自分の金をレジ担当者に渡した。
「すみません…」
仕方なく礼を言うと義母は、「いいのよ、家族なんだから」と言った。
金を払って貰えて喜ぶべきなのに、なぜか気分も消火器もずっしり重く感じた。
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