憎むなら家主を
「ニャ~オ、ニャ~オ」
夜になると窓の外から猫の鳴き声が聞こえる。
そろそろそんな時期なのか……猫の発情期。
いつまでも鳴き続けるその猫の声に、愛犬が反応し吠え始めた。
うちの近所には野良猫が多い。
特に最近増えてきたように思う。
というのも、同じ自治会の区域内に、猫屋敷があるのだ。
いつからそこが猫屋敷になったのかは知らない。
いつの間にか、本当に気付けばそこは猫屋敷になっていた。
中古物件で売りに出ていたその家に中年女性が住み始め、どうやらその人が野良猫を集めて世話をしているらしい。
世話と言ってもエサを与えるだけ。
去勢手術をする訳でもなく、年々猫が増えていく悪循環。
自治会の役員達が何度も注意に行ったそうだが、話もろくに聞いてもらえないらしく、その問題が回覧板にまで記載されていた。
ある日、近所の主婦が回覧板を持ってきた時、その話題になった。
私はその主婦が動物が苦手だと知っている。
なので犬の散歩中に会った時も、極力愛犬をその主婦に近づけないように注意を払っていた。
「嫌よね、野良猫。迷惑でしかないわ」
「……まぁ、そうですよね」
猫は好きな私だが、猫屋敷の家主のやり方には賛成し兼ねた。
するとその主婦が言った。
「この前も道を歩いてたら、目の前に野良猫がいたのよ。で、私の足元にすり寄ってきたのよ!」
「それはご飯が欲しいからだと思うけど」
私がそう言うと、主婦は「ギャーッ」と言いながら顔をしかめ、
「猫に餌をあげるなんて気持ち悪いっ」と言い、
さらに続けた。
「私、気持ち悪くてその猫を蹴り飛ばしたのよ」
「えっ⁉」
思わず声が大きくなった。
蹴る⁉猫に罪はないのに。
だがストレートにそう伝える勇気が無く、私はやんわりと言った。
「蹴らなくても避けて逃げれば追いかけて来ないですよ」
これを言うだけで精一杯。説教臭いだのいい人ぶっているだの、そんな風に思われるのはもうたくさん。
すると主婦は言った。
「どうして人間が逃げなきゃいけないのよ。邪魔しているのは猫の方でしょ」
「……うーん」
何と返せばいいのか。
確かに猫屋敷は近所迷惑だ。
だけど憎むなら家主を。猫には罪がない事を分かって欲しい。
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