私を放っておいて欲しい
実家の母から電話があり、父と一緒に3人で食事をしようと言う。
父の同居人が亡くなってから、母は父と定期的に連絡を取っている様子。
母曰く、「年老いた男を一人で放っておくのは可哀想」という事らしいが、父がそれを望んでいるのだろうかと思う。
電話越しに「お父さんもころりに会いたがっているのよ」と言われ、ここで断るのはあまりにも娘として冷たすぎると思い、渋々承諾した。
父と会うのがそれ程嫌なのではない。
母も交えてというのが嫌なのだ。父と二人きりの方がどれ程気楽か。
当日、3人で食事をしていてもほとんど母が一人で話していた。
私に話を振り、父に話を振り、一人テンションが上がっている。
この場に兄を呼ばない事が不思議でならない。
「兄さんには連絡したの?」と私が母に聞くと、「あの子は忙しいでしょ」と、また話をはぐらかす。
さらに私が、「忙しいって休みぐらいあるでしょ」と追及すると、母が言った。
「だって嫁が鬱病じゃない」
兄の妻が昨年あたりから調子が良くないらしく、鬱病なのか心身症なのかよく分からないが、心療内科に通っているらしい。
さらに母は言った。
「あぁいう人とは距離を置いた方がいいでしょ」
「あぁいう人って?」
私は母に対して苛立つのを感じた。
「だから鬱病よ。近付き過ぎるとこっちまで巻き込まれるわ」
……言葉が出なかった。
ならどうして私を放っておいてくれなかったの⁉
私も鬱病の間、ずっとそっとしておいて欲しかった。
なのに毎日のように電話をかけてきては、「外に出なさい」や「誰だって悩みはある」だの、聞きたくない言葉を投げ付けられた。
私は早くその場を離れたかった。
やはり母と会うと何かストレスを持ち帰る事になる。
そんな私の思いを他所に、母が言った。
「今日はころりがお父さんに会いたいって言うから食事会をしたのよ。お父さんも嬉しいでしょ?」
父は曖昧に笑っていた。以前と変わらずいつも受け身の父。
私が会いたかったのではない。
父が嬉しいのでもない。
母が一人で嬉しいだけの食事会だった。
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