いい人ぶる癖
以前にも増してパートに行く日は気が重い。
以前にも増して私の居場所が無いように感じるから。
毎回行く度に座るべき場所が変わる。
たったそれだけの事だが、地味にこれが精神的に疲れる。
「今日はどこに座ればいいですか?」
毎回聞かなければいけない。
黙って自分の席に座る事が出来た以前の状態がどれだけ楽だったのか思い知る。
今日も朝からそんな憂鬱な気分で指示された席に座った。
出勤するのはやめて、在宅勤務だけにしてもらおうか。
それが無理ならいっそ他の在宅ワークを探そうか。
そんな事を思いながら仕事に集中出来ずにいた。
すると一人の男性社員から声をかけられた。
「ころりさん、これ」
見るとその紙袋には可愛らしくラッピングされた菓子が入っている。
「ホワイトデー、遅れて申し訳ないけれど」
「あ、すみません、お気遣い頂いて…」
礼を言い受け取る。
そう言えばホワイトデーは過ぎたのか。忘れていた。
「ころりさんと会う機会がなかなか無いので今日は渡せて良かったですよ」
男性社員はそう言いながら笑った。
「すみません、滅多に来ないのに私にまで…」
私は本当に申し訳ない気分になり恐縮した。
「いや、ころりさんの仕事は丁寧だからいつも助かっているんですよ。内心、来てくれる日を楽しみにしているぐらいで」
まさかのリップサービス。
だが悪い気はしない。
先程まで辞めてしまいたい気分になっていた私の心が少し温かく緩んだ。
その男性社員が去った後しばらくして、酒家さんが近寄ってきた。
予想通り。遠くからこちらの様子を見ている事は気付いていたから。
「三倍返しって言ってあったのに安っぽいお菓子よ、それ」
「私は覚えてもらっていただけで嬉しいけど…」
私のその言葉が癇に障ったらしく酒家さんは、「いい人ぶる~」と言いながら自分の席に戻って行った。
しまった。酒家さんの言う通りいい人ぶった言い方をしてしまった。でも本心だったんだけどな。
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