小さな犯人
――前回(▶荒らされた花壇)の続き。
私は怖くなり夫に相談した。
すると夫は「くだらない事をする人がいるんだな!」と、予想以上に怒り、「自治会に報告して注意してもらおう」と言い始めた。
「やめて!そんな事したら余計に問題が大きくなるわ」
私は焦って夫に言った。
しかし夫は、「いつも泣き寝入りするその性格だから相手に付け入られるんだ」と言う。
しまった。夫に相談したのが間違いだった。
夫は温厚な性格だと思うが、こういった女性同士や近所付き合いといった微妙で難しい関係が理解出来ない。
間違ってる事は反論するべき、自分は正しいのだから、それだけだ。
その後にさらに関係が悪くなる事など気にしない。
とにかく私は夫に「それだけはやめて。ここに住めなくなる」と懇願し、何とか自治会への報告はやめてもらった。
そして翌日、また私は苗を購入し、花壇に植えた。
そしてそれらしき時間帯に、カーテン越しに見張っている事にした。犯人を特定する為に。
きっと近所の誰かだと思ったが、実際に誰なのか知ってしまう事への不安もあった。
その犯人を知ったからといって、どうすればいい?
直接文句を言いに行く勇気もないし、揉めて周囲の主婦の噂の的になるもの嫌だ。
犯人を知る事が良いのか悪いのか……分からないまま私は外を見つめた。
過去2回の様子からすると、夕方が怪しい。
日が陰り始めた頃、私はドキドキした。何も手に付かない。
今日は誰も来ないのだろうか。悪戯に飽きてしまったのだろうか。それならいいけれど。
するとその時、その人は来た。
すっと玄関脇のスペースから敷地内に入り、花壇の前にしゃがんだ。
私はその小さな背中を見た瞬間、力が抜けた。
まだ幼稚園児に見えるその女の子。
女の子は楽しそうに花を摘んだ。(というより引き抜いた)
よく聞くと「フンフン」と鼻歌まで聞こえる。
親は近くにいない様子。一人で来たのだろう。
女の子は3分程いただけで、すぐにその場を立ち去った。残ったのは散らばった花。こういう事だったのか。
私は頭から大人の仕業だと思い込み、被害妄想に駆られていた。
子供だから良いという訳でもないだろうが、その女の子の様子を見ていて不安や恐怖は消えた。
私は外に出て、花壇の前の花を片付けた。
翌日からは花壇に新しい花を植えていない。女の子は興味を無くしたのか、それ以来来なくなった。
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