初対面でLINE交換
――前回の続き。(▶始まりは視線)
その女性は私と同年代か、少し上ぐらいに見えた。
だが声が本当に可愛らしく、まるで少女のような綺麗な声なのだ。聞いているだけでなぜか気持ちが落ち着いた。
「ここの先生って無表情だと思いませんか?」
「あ、分かります。淡々としていますよね」
話しているうちに心のガードも解け、いつの間にか自然と会話が続いていた。
「ここの病院の前はどこに行っていたのですか?」
「○○クリニックです」
「あ、知っています。有名ですよね」
心療患者同士でしか出来ない会話も出来る。
プライベードな会話は一切無かったが、今服用している薬やその効果、副作用などの事まで彼女は色々話してくれた。
私は普段、パート先や近所の主婦、私や夫の親達としている会話よりもずっと楽に会話出来ている事に気付いた。
明るく元気な人を装う必要がない。
そもそもこの場にいるという事実が、私の暗さや弱さを代弁してくれる。
「待ち時間が長くて嫌だったけど、話し相手がいて良かったわ」
彼女がそう言ってくれたので、「私もです」と答えた。
その時はそれが本心だった。
そしてしばらくし、彼女が診察室に呼ばれた。
彼女の診察後に私もすぐに呼ばれた為、私は彼女と交代するかのように診察室に入った。
私が診察を終えて待合室に戻ると、既に彼女の姿は無かった。
会計を済ませて帰ったのだろう。
私はそう思っていた。
しかし私がその病院を出ると、なんとそこには彼女の姿が。
「あっ!」
私は声を上げたものの、次の言葉が出ずにただ立ち尽くしていた。
すると彼女が、「待っていたんです」と言う。
そして、「よかったらLINEを教えてもらえませんか?」と言った。
それは……。
確かに話しやすい雰囲気の人だ。待ち時間の会話はとてもリラックスができた。
だが初対面。
いきなりLINE交換?戸惑いがあった。
だがどう断ればいいかも分からず、断るべきなのかも判断が出来ず、流されるようにそのままLINEを交換した。
誰だって最初は初対面。これが人との出会いというもの。そう言い聞かせている。
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