悪気はないけど罵倒する人

連日世間を騒がせている芸人と会社の問題。
展開がコロコロと変わり、続けて会見が行われた事もあり、私も興味津々で社長の会見を見た。
この一連を見ていると、まるで社会全体の縮図を見ているような気分になった。
今回の社長の会見を見ていて、私は昔の職場にいた男性社員を思い出した。
状況が同じだとか、似ているという訳ではないのだが、何か重なるものがあった。
その男性社員はとにかく怖かった。
まだ若かった私にはその人と同じ空間にいる事が恐怖でしかなかった。
だがその男性社員と部屋で二人きりになる事も多く、彼がいつ爆発するだろう…とビクビクしていた。
その男性社員は、仕事上や社内で嫌な事があると、ブチ切れた。
机を叩き、カバンを壁に投げつけたり、ゴミ箱を蹴ったり。
電話に受話器を投げ付けるなんていつもの事だった。
さらに突然言葉使いが悪くなり、私も何度「お前」と呼ばれたか分からない。
私が一番覚えているのが、夜の飲み会があり、その頃からそういう集まりが苦手だった私は、「その日は予定がありまして…」と上司に断りを入れた。
するとそれを近くの席で聞いていたその男性社員が、
「お前、それが許されると思ってるのか⁉俺は許さねぇ」と言い出した。
今、こうして文字にして書くと、まるでドラマの1シーンのようで笑ってしまうが、その時の私の恐怖と辛さは相当なものだった。
その後もその人に何かと監視され、その人が気に入らないと急に荒々しい言葉遣いで怒られるのが怖かった。
私の前任者もその人が怖くて辞めると、引き継ぎ時にこっそり私に洩らしていたが、表面上はその男性社員と仲良くしていた。
そして言った。
「悪い人でもないのよね。人情厚くて、上手く付き合えば可愛がってくれるわよ」
私が男性社員に罵倒された日、それを見ていた上司が後で私に言った。
「彼も悪気は無いんですよ。ちょっと感情的になりやすいだけで。長く付き合えば良さも分かるから」
そんな風に、誰も彼に注意したり本社の上層部に報告する事も無かった。
しかし私は最後まで彼と打ち解ける事もなく、逃げるように辞めてしまった。
だが、辞めてから客観的に考えると、上司が言っていた「彼も悪気は無い」という事がほんの少し理解出来るような気もした。
確かに会社でそれは通用しないと思うが、その男性社員の不器用さは私もどこかで感じていた。
私を罵倒したかと思ったら、私が好きだと話したスイーツを買ってきてくれたり、仕事へのアドバイスをしてくれたり。
それが本当に有難く感じる事もあれば、逆に迷惑だと思う事もあったが、彼は常に一生懸命に生きている人だったような気もする。
今思えば昔はこんな人も多かった。
それでも別の良い面もある事で、周囲の人は彼らを受け入れ、どこか家族的になっていたように思う。
あの時の男性社員は今どうなっているのだろう?
丸くなったのだろうか?
今の時代、あのままの性格で許されているとは思えないけれど。
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