鬱憤晴らしの相手
パート先の酒家さんから電話がかかってきた。
スマホの画面に表示されたその名前を見た瞬間、胃がギュッと痛くなった。
何だろう。
頼まれていたバレンタインデーのチョコは先日会った時に渡した。
それに問題があったのだろうか。
胸がザワザワしたまま電話に出た。
「あ、ころりさん?私」
その口調はまるで昔からの旧友のようだ。
なぜか機嫌が良く、顔は見えないがいつものように毛先をいじりながら少し首を傾げた酒家さんが目に浮かんだ。
「この前のチョコ、ありがとう。男の人達、喜んでいたわよ」
どうやらチョコを渡した報告の電話らしい。
わざわざそんな報告いらないのに……そう思いながらも、「良かったわ」と私は答えた。
酒家さんは
「それでね、ころりさんが買ってきてくれました!ってしっかり伝えておいたから」と言い、さらに、
「お返しは3倍返しでお願いしますってころりさんが言ってました!って伝えてあるから、アハハッ」と笑った。
またそんな余計な事を……。
私は返しなど期待していない。
正直なところ、返しなど貰ってしまうとそのお礼を言わねばならず、そのやり取りの面倒さを考えると返しなど無い方が気楽でいいぐらいだ。
私は早く電話を切りたくなり、
「酒家さん、仕事中?忙しいでしょう?また今度ゆっくり……」と言いかけたが、彼女はそれに被せるように、
「いいのいいの、今丁度手が空いたところだから」と言いなかなか電話を切ろうとしない。
とはいえ仕事中にわざわざこの電話?
契約社員になり仕事量も増え、いよいよ彼女もやる気になったのかと思っていたが、この性格は変わらないようだ。
その後も散々彼女の愚痴や職場の悪口を聞き、ようやく電話を切ろうとした時彼女が言った。
「私も忙しくて大変なのよ。頼りにされちゃって負担だけど遣り甲斐はあるわ」
何だったのこの電話。
ただの暇潰し?鬱憤晴らし?
私はただ「そう、良かったわね」と答えるしかなかった。
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