理想の娘から卒業したい
今日は嫌な予定があった。
親戚が実家に来ると言うのだ。
長い間会っていない叔父夫婦。
母に会いに来るのだから母が一人で対応すればいいのに、母から私に連絡があり、「どうする?どこか良い店を予約しようか?」と、相談をし始めた。
私も同席するのが当然だと思っているのだ。
その時は反発する元気もなく、私はただ母の言うがままに頷いた。
そして今日が近づくにつれ、自分が思っている以上に負担に感じている事に気付いた。
親戚と会うだけ。
それだけの事なのに物凄い拒否反応。
昨夜は全く眠れず、今日も朝から胸の鼓動が治まらない。
そしていつもの様に手が震え始め、呼吸が浅くて苦しくなる。
厳密には「親戚と会うのが嫌」なのではなく、「母と一緒に親戚と会うのが嫌」だった。
またきっと母は自慢の娘をアピールするだろう。
そしてそれを演じなければならない……想像するだけで吐き気がした。
母は親戚の前では特に、仲良し親子を演じたいらしい。
何度溜息をついても心の重しは消える事なく、私は久々に安定剤を飲んだ。
しかし一向に効果がない。
服用するタイミングが遅すぎたか。
楽になるどころか、時間が迫るにつれて目の前が暗くなるような感覚に襲われた。
ダメだ。しっかりしなきゃ。これぐらいの事。すぐ終わる。
そう言い聞かせて待ち合わせ場所に向かった。
しかし母のパワーはいつもにも増して強く、理想の娘像を作り上げる。食事中、母の声ばかり響いていたように思う。
「ころりは大変な仕事をしていて忙しいのよ。女は働く時代ね」
誰の話をしているのだ。
現実の娘は引きこもり、仕事なんてほとんどしていないも同然なのに。
「やっぱり娘がいるといいわ。何でも話せるから友達みたいよ」
私の方は母を友達だなんて思った事はないのに。
叔父夫婦は母の自己満足に付き合い、「いいわねぇ」と微笑んでくれていた。
帰り際、母が私に言った。
「来て良かったでしょ?楽しかったわね」
……どんな時も、どんな会話をしても、母と分かり合える日は来ないと思った。
- 関連記事
よく読まれている記事