ぬか喜び
ある日夫が、夕食時に言った。
「また一人辞めるらしい」
夫の勤める会社の業績は下がる一方らしく、ここ数年で人がどんどん減っている。
最近はいよいよ危機感があり、夫の給料も少し前に減額された。
周囲の人が辞めていくのに、夫は焦らないのか?
そう思ったが私が口を出せる事ではない……そう思い黙っていると、まるで私の心を見透かしたように夫が言った。
「そろそろ転職しようかな」
「え?そうなの?」
思わず私の声のトーンが上がる。
何も言わず我慢していたが、本当は私もそれを望んでいた。今の職場がダメなら転職して欲しい。少しでもいいから収入が上がって欲しい。
私が働く事を夫が反対している今、これ以上私が収入を増やす事は出来ない。ならば夫に期待するしかない。
「本気なの?いつ頃?転職先のアテはあるの?」
今まで我慢していた思いが溢れ出し、私はブレーキが利かず矢継ぎ早に聞いた。
それでも夫は、「本気だよ」「大丈夫、何とかなるから」と余裕の笑みで返してくれた。
私は嬉しくなった。
久々の見通しの明るい良い話。
夫に「大丈夫」と言われる事が、これ程私の心を軽くするのか。
私は機嫌よく風呂に入り、心地よく眠りについた。
だがその翌日、撃沈した。
私はまた夫に急かしてしまったのだ。
「ねぇ、それで?転職の話だけど」
どうなるのか気になって仕方がなかった。夫の気が変わってしまうのが怖かったのかもしれない。
すると案の定、夫は言った。
「やっぱり自信がないよ。現状維持でいい」
……一日で?もう気が変わったの?というより、昨日も本気だったのかどうか疑わしい。
一度喜んでしまった分、私の落ち込みは激しかった。
やはり今の暮らしを変える事は出来ない。
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