他人の優しさ
――前回の続き。
頭の中は完全に退職の事だったので、まさかの言葉に驚いた。
「在宅……ですか?」
これはどう受け止めればいいのだろう。
凄くネガティブな私は、私がこの職場に来る事が迷惑なのだろうか……と思った。
他のパートの中には、欠勤が続く私の事を不愉快に思っている人もいるだろう。その輪を乱さない為にも、上司が考えた案なのではないか。
だが他のパート達にそこまで嫌われているのなら、在宅で働くなどという中途半端な事をせず、いっそこの職場と縁を切ってしまいたい。
だが上司は続けて言った。
「もしかしたらこのままころりさんに仕事を辞められてしまうのではないかと思いましてね」
ズバリ図星をさされ思わず、
「そんな事ないです」と気付けば無意識に口走ってしまった。
上司は笑みを絶やさず言った。
「気を遣って辞められるぐらいなら、在宅勤務をしてもらえる方がずっとこちらとしては嬉しいのです」
その後に続く上司の話は、とても感謝すべき内容だった。
聞いているうちに、最初のネガティブな発想が徐々に消えていった。
上司は純粋に私の事を心配してくれている様だ。
私を追い出す作戦なのではないか?とひねくれた考えを持った自分が恥ずかしい。
「もちろん出勤出来る日は今まで通り会社に来て下さい。あくまでも在宅勤務は欠勤の穴埋めとして。これで給料が減る心配をしなくてもいいでしょう」
そうまで言ってくれる上司に私はただただ頭を下げた。
それ程親しい関係でもないのに。
私の事など関心が無い人だと思っていたのに。
人と深く関わる事が苦手で、誰にも心を許せない私。
だけどこんな風に人の情を感じると、片意地を張るばかりの自分がちっぽけな人間に思えてならなかった。
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