夫の転職、妻の笑顔
「こんにちは」
突然背後から肩を叩かれた。
振り返ると見覚えのある女性が立っていた。
どこかで会った事がある……仕事関係か……返答も出来ず私が立ち尽くしていると、その女性が言った。
「神崎です。いつも主人がお世話になっております」
そうだ、主人と言われて思い出した。
夫の同僚の妻だ。
何年も前に夫の職場でBBQパーティーがあり、皆家族同伴で来るから……と、私も一緒に参加した事があった。
社交性のない私は夫に張り付き、他の主婦達と仲良くなれなかった記憶がある。
ただその中で少し言葉を交わしたのがこの神崎夫婦だった。
「お久しぶりです。こちらこそお世話になっております」
「お元気でした?こんな所で会うなんてね」
神崎さんはそう言い笑った。
それは義母を連れて行ったデパ地下での出来事だった。
私は慌てて隣にいた義母を紹介した。
「夫の母です」
神崎さんは愛想よく挨拶してくれていたが、義母は小さく会釈するだけ。人見知りと言えば可愛いが、他人には急に不愛想になる事がある。
だが神崎さんは気にしない様子で、私に親しげに話し続けた。
「ご主人、まだあの会社に勤めているの?」
「え?」
その聞き方に私が驚いていると、「うちの主人、転職したんですよ」と、どこか嬉しそうに言った。
そうだったのか。
夫は職場の事はほとんど話さないから、同僚が辞めた事など私が知る由もない。
「うちはまだ続けています」と答えると、
「大変よねぇ、あの会社も」と神崎さんは言い、「辞めるなら早い方がいいと思って、私は主人に転職するようお願いしたんですよ」と明るく笑った。
こんなに明るい妻なら夫もやる気が出るのだろうか。
転職する勇気の無い夫と、その後押しする事の出来ない妻、それが私達。
取り残された気がした。夫もいつもこんな気分でいるのだろうか。
神崎さんは終始明るく笑いながら話していた。
彼女が去った後、隣でずっと黙っていた義母が言った。
「何だか偉そうな口調で嫌な人ね」
そうだろうか。私には偉そうには思えなかった。ただ明るくて眩しかった。
「ご主人、まだあの会社に勤めているの?」
「え?」
その聞き方に私が驚いていると、「うちの主人、転職したんですよ」と、どこか嬉しそうに言った。
そうだったのか。
夫は職場の事はほとんど話さないから、同僚が辞めた事など私が知る由もない。
「うちはまだ続けています」と答えると、
「大変よねぇ、あの会社も」と神崎さんは言い、「辞めるなら早い方がいいと思って、私は主人に転職するようお願いしたんですよ」と明るく笑った。
こんなに明るい妻なら夫もやる気が出るのだろうか。
転職する勇気の無い夫と、その後押しする事の出来ない妻、それが私達。
取り残された気がした。夫もいつもこんな気分でいるのだろうか。
神崎さんは終始明るく笑いながら話していた。
彼女が去った後、隣でずっと黙っていた義母が言った。
「何だか偉そうな口調で嫌な人ね」
そうだろうか。私には偉そうには思えなかった。ただ明るくて眩しかった。
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