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苦い珈琲

ころり

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インターホンが鳴った。

玄関ドアを開けると近所の主婦が立っていた。

「忙しいのにごめんなさいね」

忙しくないのは分かっているであろうが、お決まりの言葉が挨拶代わり。


手には大きな紙袋を下げており、その中には綺麗に包装された箱がたくさん入っているのが見えた。

その主婦とはほとんど会話した事がない。
時々挨拶する程度だ。

同じ班ではないが、隣の班で私の家と近い事もあり、顔だけはよく見かけた。

いつも忙しそうに焦った表情をしていて、笑った顔なんて見た事がなかった。私も人の事は言えないが。

だが今目の前にいるその人は満面の笑み。

ふ~ん、こんな風に笑う人だったのか。


主婦は嬉しそうに言った。

「実は、今月引越しする事になったんです。今までお世話になりました」

「えっ⁉」



私は驚き思わず声が出た。

引越しなんて誰にでもあり得る。驚く程の事ではない。
そう頭では分かっているが、今まで隣近辺の人達がこの地域を出て行く事は無かった為、自分でも予想以上に驚いた。

何だか先を越されたような気分。

現実的には難しいと分かってはいるが、この子育て世代ばかりが集まる住宅街からずっと脱出したかった。それを実現しようとする人が目の前におり、表情も嬉しそうで羨ましいを通り越して妬ましい程。

「わぁ、いいですね」

そんな妬みの心を隠し、私は笑顔を作った。

「そうでもないんですよ。次の住居はマンションですしね。今の家よりずっと狭くなるし」

「え?マンション?羨ましい……」

私は思わず本音が出た。

マンション。今のような近所付き合いが盛んな住宅街に比べてどれ程気楽だろうと想像する。独身や子無し夫婦も多いのではないか?そう思うと私のマンションへの憧れは膨らむばかり。

その主婦は言った。

「老後を考えるとマンションが気楽だと思って。災害にもマンションの方が強くて安心でしょう?」

私は深く頷いた。確かにそうだ。

「では今までありがとうございました」

そう言って紙袋から一つ包みを取り出し渡された。去って行くその主婦の笑顔を見るのはこれが最初で最後。

包みを開けると珈琲セットだった。
私はイライラした気分で湯を沸かし、キッチンに立ったままその珈琲を飲んだ。

とても苦い味がした。





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Posted byころり