語る表情
―――前回の続き。
それでもその日、私はその会場に行った。どうしても一目その子に会いたかった。
譲渡会といっても畏まった感じではなく、広い公園の一角で行われていて、その公園では他にもフリーマーケットや何かのイベントを行っている団体がたくさんいるからか、散歩を兼ねて遊びに来ただけという人も多い。
その大勢の人達に紛れながら、私は一直線にその譲渡会に向かった。
その場所はすぐに見つかり、数人のスタッフとおぼしき人達が見学者の対応をしていた。
この場に来るまでは見学者は少ないだろうと思っていたが、意外な事にその譲渡会は賑わっていた。
これなら近寄りやすい、そう思いながら私はその賑わいの中、ソッと隅から覗いた。
ケージに入った犬達を見渡すと、そこにその子はいた。
ネットで見ていた通り、今日も大人しく静かに伏せている。
周囲にいた子供がケージ越しに呼びかけているが、反応はなくやはり無表情なままだった。
しばらく私は立ち尽くし、ジッとその子を見つめていたが、それに気付いたスタッフが私に近付いてきた。
「その子、とても大人しいんですよ」
はい、知っています。私は内心そう思いながら、この子に里親が見つからない特別な理由が何かあるのかを聞いた。
「それは無いのですが、やはりある程度年齢が上だと見つかり辛いですね。あと、この子の無表情さもアピールが足りないのかも」とスタッフは笑った。
いえいえ、私は逆にこの子の無表情が気になって仕方ないんですけどね。
「抱いてみます?」と聞かれたが、飼えないのにそれは出来なかった。罪な気がして。
その後スタッフは続けた。
「でもね、さっき来てくれたご夫婦がこの子を気に入ってくれたみたいで、一度検討してくれると言ってたんです」
「え?本当に?」私は嬉しくて思わず声を上げた。
まだ検討の段階だが、また連絡をくれるらしい。
そうしてそのスタッフを会話をしていると、突然その子が顔を上げてこちらを見た。
ジーッとこちらを見てる。まるで何かを語りかけるように。
「あら、どうしたの?珍しいね、人の顔見るなんて」とスタッフがその子に話しかけた。
スタッフに話しかけられると、その子はまたプイッと横を向いて目を閉じた。
その後、スタッフは他の見学者に話しかけられて私の元を離れた。
私はその会場を後にした。
去り際、その犬の顔を何度も見たが、もうその子は目を開ける事はなかった。
日曜日の人混み、賑やかな音楽が流れるその公園をトボトボと歩きながら、私の心にはこちらを見ていたあの子の表情がいつまでも焼き付いて離れなかった。
その後スタッフは続けた。
「でもね、さっき来てくれたご夫婦がこの子を気に入ってくれたみたいで、一度検討してくれると言ってたんです」
「え?本当に?」私は嬉しくて思わず声を上げた。
まだ検討の段階だが、また連絡をくれるらしい。
そうしてそのスタッフを会話をしていると、突然その子が顔を上げてこちらを見た。
ジーッとこちらを見てる。まるで何かを語りかけるように。
「あら、どうしたの?珍しいね、人の顔見るなんて」とスタッフがその子に話しかけた。
スタッフに話しかけられると、その子はまたプイッと横を向いて目を閉じた。
その後、スタッフは他の見学者に話しかけられて私の元を離れた。
私はその会場を後にした。
去り際、その犬の顔を何度も見たが、もうその子は目を開ける事はなかった。
日曜日の人混み、賑やかな音楽が流れるその公園をトボトボと歩きながら、私の心にはこちらを見ていたあの子の表情がいつまでも焼き付いて離れなかった。
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