忘れられない





――――前回の続き。

しばらくして、その定員を連れて女性が戻ってきた。
その定員は本当に犬好きらしく、「本当ならこの子を連れて帰ってあげたいところだけど、ちょうど明日、新しく犬を迎える事が決まっているからねぇ・・・」と残念そうに言った。

その後もその女性達と私の三人で、どうしようか・・・と話していたが、誰も決断する事も行動する事も出来なかった。

私達の地域の保健所では、預かり期間が数日程度で殺傷処分される。
愛護センターも同じで、噛み癖のある子、飼い辛い子などは選別され、譲渡会に出される子はごく一部らしい。
この犬も不安感があるからだろうが、手を出そうとすると噛むので、その辺りをどう判断されるのか……。
それを考えると、軽々しく愛護センターなどに電話出来ない。
やはり一般の方に保護してもらい、ゆっくり里親を募集するのが一番なのだが――私達には自宅で保護するのが難しいというのが現状だった。

ただ、その店員の女性が、「とりあえず警察か保健所に言って、飼い主や里親なりを探してもらって、それでもみつからなかったら私が飼おうか」と言ってくれていた。
でも今すぐ電話しようという話にもならなかったので、やはり迷いもあるし相談すべき相手もいるだろう。

結局お互い、とりあえず一度帰宅する事となった。
不幸な事だが犬は足が痛そうなので、前日のようにウロウロ歩きまわろうとしない。昨日よりは危険度が下がったともいえる。
私はまた後で見に来ますと言い、その女性も毎日仕事でその場所に来るのでどうするか考えつつ気にかけてくれる様だった。

やはりこのまま、また犬を置き去りのするのかと思うと心は重かったが、正直なところ、私は彼女達と話せた事で少し気持ちが落ち着いた。
同じ想いで会話できる人がいた事で心が救われたのだろう。何も解決していないのだから、それは単なる自己満足なのに。



一応、夫にも彼女達との会話を説明すると、「そうか、きっとその人達が何とかしてくれるよ。うん、絶対そうだよ」と自分と私に言い聞かせるように言った。
私もそう思いたい、そう思うとしている自分がいた。その方が楽だから。

でも実際は、彼女達だって私と同じかもしれない。
お互いが責任を分け合う事で、肩の荷が下りた・・・そう自分に都合よく解釈しているだけな気もする。

そしてその日の夜、また私はこっそり犬の場所に出かけた。
もう夫には言えなかった。

水と食べ物だけあげて帰ろう、明日の朝には彼女達も来てくれるといいんだけど……。
そう思いながら犬がいた駐車場に行くと、そこはガラーンとして犬はもういなくなっていた。

どうしたんだろう?

咄嗟に、彼女達でない他の近所の人に、保健所に連絡されてしまったか?と思った。
食料品店が多く並ぶこの地域で、良く思わない人の方が多いだろう事も気付いていた。

でももしかしてあの後、定員女性が決心して連れて帰ってくれているかもしれない。
そんな低い可能性さえも、無理やりそう思おうとしながら、心は闇のまま帰宅した。

結局私は騒いでいただけで何も出来なかった。
自分が幼い子供の頃は、頻繁に捨て猫や野良犬を連れて帰っては親に呆れられていた。
でもそこに迷いや不安はなかった。
たった一人でも世話をし、広告を作り、里親を見つけ出していた。
なのに今はこれ程心が揺れるのに、行動に移すことが出来ない。

当分あの道路を通りたくない。
あの犬の顔を忘れられないから。




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Posted byころり