保護する勇気
――――前回の続き。
ビュンビュンと車が走る車道で、その犬はまだウロウロしていた。
よける車もあれば、慌てて急ブレーキをふんでいる人もいて、本当にいつ撥ねられてもおかしくない。
近くにある駐車場からドッグフードを片手に持って呼び寄せると、犬はこちらの方まで恐る恐る近寄ってきた。
そしてフードを皿に入れた瞬間の必死の食べっぷりからすると、随分食べていなかったのだろう。
体もかなり痩せ細っている。全身汚れているし、皮膚の様子からするともしかして病気になっているかもしれない。
犬は水もガブガブと大量に飲んだ。どれ程長い間満たされていなかったのだろう。
一緒にいた夫も、いざ目の前にするとやはり少しは情も出てしまうのか、困ったなーという表情をしつつ、犬に水のおかわりをあげていた。
が、やはり連れて帰る事は出来ない。
正確には連れて帰る勇気がなかった。
そのまま、私達は犬を残して家に帰った。
昨日の夜は5月だというのにとても寒く、私は温かいお風呂に入りながら、震えている犬を思い浮かべ、心にドーンと重石が入ったかのように、息苦しかった。
翌日、私達夫婦は出掛ける予定があったので、ちょうどその車道を通る事になった。
私はもしまだいたら・・・と思い、またフードや水を用意していた。
その犬は、昨日別れた駐車場にまだいた。
ただ、昨日はあれ程ウロウロと落ち着きなく歩きまわっていたのに、隅の方でペタンと横たわっていた。
嫌な予感がした。
近寄って、フードを持って呼び寄せるとやはり・・・・足を引きずっている。
歩くのが辛そうに、ヨタ、ヨタ、とゆっくり近寄ってきた。
撥ねられたんだ。
どうして何もしてあげなかったのか、今も何もしてあげないのか、言葉では言い表せない感情で押しつぶされそうになった。
夫は来た時から、自分はもう見たくないと言い、すぐ近くに停めた車で待っていた。
私は夫に「撥ねられたみたいだよ」と言いに行ったが、やはり夫は「可哀想だけど仕方がない」と言い、犬を見に行こうとせず、私が「やっぱり連れて帰ろう」と言うと、「だから、その後どうするの!?」とイライラした口調で「無理だろ!」と言った。
僕だけじゃない、ホラ、みんなだって気付いていても通り過ぎているじゃないか、と。
みんななんて関係ない!
自分の愛犬はあれ程可愛がるのに、他の犬には冷たすぎるんじゃないの!?
先々の事まで分からないけど、出会ってしまったんだから今出来る事をしてあげたいのはそんなに悪いのか?と、その場で夫と口論になったが、夫の機嫌は悪くなる一方で、もうこれ以上は会話も無理なようだった。
自分の理想を夫に押し付けてしまっていると分かっていた。
何より、私一人で何とかするわ!と強く言えない私が悪いのだ。
その後、犬にフードをあげながらその様子を眺めていると、一人の女性が目の前を通り過ぎつつ私と目があった。
「その犬、昨日からいるよね」と女性は言った。
「え?私も昨日の夜に気付いたんです」
と、そのままその女性と会話する事となり、どうやらその女性は目の前にあるショップの経営者らしく、昨日の昼頃から犬に気付いていたらしい。
そして私が「今朝来てみたら様子が変で、車に撥ねられたみたいなんです」と言うと、その女性は驚きつつ、「ちょっともう一人呼んでくるわ。隣の店の定員さんも昨日から気にしてたから」と言い立ち去った。
――――続きます。
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