お冠
パートに出勤した日。
更衣室に荷物を取りに行くと、私と同じパートの女性が一人、先にいた。
「お疲れ様です」
互いに声を掛け合う。
その女性とはあまり会話をした事がない。誰とでも合わせられる性格に見え、いつも笑顔で敵を作らないタイプに思えた。
その人自体は苦手ではないが、いつも傲慢な古株パート達と仲良しグループになっている為、私は必要以上に近付いた事がなかった。
だがこの日、珍しく相手から話しかけられた。
「ねぇ、ころりさん、何日か前に古内さんに送ってもらったって聞いたけど」
あぁ……そうだ。
私はこの数日前、その古株パートの一人、古内さんに家の近くまで送ってもらった。
私が退社後、駅までの道を歩いていると、背後からプッ!とクラクションを鳴らされた。
振り返るとその古内さんが運転する車があった。
古内さんは窓を開け、
「ころりさん、乗ってかない?送りますよ」と声をかけてくれた。
だが彼女の事は苦手。さらに車という密室で何を会話すればいいのか分からない。疲れそう。
「いえ、申し訳ないですから。大丈夫です」と私が言うと、
「いいよいいよ、同じ方向だし、どうせ通り道なんだから」
そして私が返事をする前に、ガチャッと助手席のドアを開けられてしまった。
仕方がない。
それにこういう時、断り過ぎるのが私の悪いところ。
時には付き合いだと思い甘えてみる努力が必要なのかもしれない。
私は「ではお言葉に甘えて……」と助手席に座った。
こんな高級車、緊張する。そんな事を思いながら、出来るだけ当たり障りのない会話を繋ぐ。彼女に目をつけられてしまっては厄介だから。
それから時間にして20分弱といったところか。
「あ、ここでいいです。ありがとうございました」
私は家の近くの大通りで降ろしてもらった。
「じゃあまた来週ね、お疲れ様!」と明るい声で手を振る古内さん。
私にとっては気を使うばかりで、楽しい時間とはいかなかったが、こんな風に送ってもらえるなんて、とりあえずは彼女に嫌われた存在でなかったんだと思うと少しホッとした。
そんな出来事の数日後、他のパートから驚きの言葉を聞かされたのだ。
「あのね、古内さん、その時の事でちょっとお冠よ」
そう言いながらそのパートは苦笑した。
――続きます。
それにこういう時、断り過ぎるのが私の悪いところ。
時には付き合いだと思い甘えてみる努力が必要なのかもしれない。
私は「ではお言葉に甘えて……」と助手席に座った。
こんな高級車、緊張する。そんな事を思いながら、出来るだけ当たり障りのない会話を繋ぐ。彼女に目をつけられてしまっては厄介だから。
それから時間にして20分弱といったところか。
「あ、ここでいいです。ありがとうございました」
私は家の近くの大通りで降ろしてもらった。
「じゃあまた来週ね、お疲れ様!」と明るい声で手を振る古内さん。
私にとっては気を使うばかりで、楽しい時間とはいかなかったが、こんな風に送ってもらえるなんて、とりあえずは彼女に嫌われた存在でなかったんだと思うと少しホッとした。
そんな出来事の数日後、他のパートから驚きの言葉を聞かされたのだ。
「あのね、古内さん、その時の事でちょっとお冠よ」
そう言いながらそのパートは苦笑した。
――続きます。
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