脱毛体験。体に残る薬はNG
――前回の続き。(▶40代のエステ体験)
彼女が夢中で私に話をしている途中から、もしかして私も誘われてしまうのではないかと嫌な予感がしていた。
ついつい彼女に合わせ相槌を打つからこうなってしまう。
私は「でも私お金がないから」と、準備していたセリフを言った。
「それがね、友達紹介の無料チケットがあるの。だから体験に行くのは無料なのよ。一度でもいいからころりさん、行ってみてよ。私も紹介割引があるので助かるし」
多分最後の言葉が彼女の本音。
そしてそこまで言われてしまうと断る理由が見つからない。
「一度行ってみて、嫌だったら遠慮なく断っていいから、ね?」と言われて、私は頷くしかなかった。
後日、私はそのエステに行った。予約は既に酒家さんが済ませていた。
自分には場違いな場所のような気がして落ち着かなかった。
若い頃ならまだしも、こんな年齢になってこんな場所にくるなんて、恥かしい。
そして脱毛を体験するというのも緊張して正直怖かった。
痛みがないと聞いていたが、本当だろうか?
強引に勧誘されたらどうしよう。うまく断れるだろうか……などなど最初から心配ばかり。
担当してくれたエステティシャンはとても明るく美しい人だった。こんな仕事がとても似合っている。
最初に脱毛に関する説明を受け、いざ体験を受ける前に簡単なカルテのようなものを書いた。
特別書きづらい項目はなかったが、一か所迷ったところがあった。
「薬の服用について」
現在服用している薬はあるか?という質問。
正直に書く必要があるのかな?脱毛に服用薬なんて関係ないんじゃない?無視しようか……迷ったが、結局書く事にした。
安定剤。
抗鬱剤とは書かず、安定剤と書いた。
こんな綺麗な場所で、綺麗な人の前で、抗鬱剤と書く勇気がなかった。
なぜか?うまく説明出来ない。ただこの場所では抗鬱剤を服用する人を理解してもらえないと思ったのだ。理解してもらう必要はないというのに、私の劣等感がここで嘘をつかせた。
エステティシャンはカルテに目を通し言った。
「このお薬は毎日服用していますか?」
「……いいえ、時々です」
本当は毎日抗鬱剤を服用しているが、私はそれも嘘をついた。
「そう、それなら大丈夫です。ではこちらへ」と、エステを受ける部屋に移動した。
実際、私がとても緊張していたせいか、エステティシャンの女性に何度も「大丈夫ですか?」と声をかけられた。
思い返すと、一時期は美容室でも椅子を倒されるのが怖かった程不安が強かった。それが今はどうしても必要な訳でもないのに、人付き合いの為にこんな場所でこんな処置を受けるなんて……自分でも驚き。少しは良くなったと思っていいのか。
肝心の脱毛の方は、全く痛くなかった。凄い。少し温かいと思った程度。これで本当に脱毛出来るのか?不思議。
ただ体験だった為に、足の一部分、10cm四方に光をあてただけなので、効果などはよく分からない。
だけど私にとっては未体験の経験だった為、とても刺激的な時間となった。
そして終わった後、やはりエステティシャンに契約を勧められた。
その時、エステティシャンがある事を言った。
「お薬は一日前から服用しなければ大丈夫です。体に残るようなお薬はダメですけど、ころりさんは問題なさそうですし」
え?体に残る薬?その言葉に引っかかった。
「例えばどんな薬がダメなのですか?」と私が聞くと、
「そうですねぇ……以前お客様で、抗鬱剤を服用されている方がいてお断りした事があります」
まさに!その抗鬱剤を服用しています!とは言えず、驚きで言葉を失った。
私は本当はダメなのに嘘をついて体験をしてしまった。
急に恐ろしくなり私は、「考えておきます」と言いその店を飛び出た。
抗鬱剤がまさかこんな所で関係してくるなんて……。帰宅してからネットで調べたが、やはりそうらしい。
薬を服用している事をもっと慎重に受け止めるべきだと感じた一日だった。
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