時計

30歳の頃だったように思う。
その時の職場の同僚に、「ころり、時計しないの?」と聞かれた。
私は昔から腕時計というものをほとんど身に着けた事がない。理由はいくつかある。
腕が締め付けられるような気がして心地悪い。
時間に縛られるようで落ち着かない。
周囲の女性が高級時計に夢中になっているのが嫌だった。
最後の理由が一番大きかったように思う。
職場の同年代の女性達は皆揃って高級時計を腕につけていた。自分の給料で購入したと言う人もいたが、多くの人は彼氏に買ってもらったか、就職祝いに親に買ってもらったもの。
私にはそんなものは無かった。
それを彼女達に言うと驚かれた。まるで一つぐらい持っているのが当然だろうと言うように。
さらに、その頃既に結婚していた私に、「それなら結婚の時は?ご主人に何も買ってもらわなかったの?」と同僚は聞いてきた。
「何も」と私が答えると、「勿体ない!折角のチャンスなのに」と大袈裟に驚かれたのを覚えている。
だが私は彼女達を羨ましいと思った事もなく、高級時計の価値も分からなかった。
彼女達が腕にしている時計が、50万とか100万などと聞くと、時計にそんな高額なお金を払うなんて信じられないわ……と思った。経済感覚が違い過ぎて価値が分からない。
そんな物に金を使うぐらいなら、日々の生活費の為に貯蓄したいと思う。
しかし、その頃の同僚達は時計やバッグに夢中になり、
「ころり、それなりに年齢に見合った時計や指輪を持っておく方がいいと思うわ」とアドバイスしてくれる人もいた。
そうなると、興味のない私もそうそう安い時計をし辛くなった。
もし腕時計をするなら、それなりの時計を。
人の目を気にし始めると、腕時計なんていっそ要らないような気がした。
タイミング良く、その頃私はガラケーを持ち始めた。
携帯があれば時計の代わりになる。腕時計がなくても困らない。
その頃から現在まで、私の腕は自由なままだ。何にも縛られていない。
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