言い訳
――前回の続き。
「優子に限らず、子供がいるとどうしても疎遠になるのよ」と私は母に言った。
しかし母には簡単に伝わらない。
「そんな事はないわ。私の周囲の人は皆子供も成長して家を出ているし、一人暮らしの人も多いけど関係ないわよ?結局は性格の相性が重要でしょ?」と母は自信ありげに言った。
性格の相性……
それはそうだろう。最終的にはそう思う。
だが30代、40代の子育て世代の女性にとって、子供がいる、いないではどうしても興味のある対象や会話が食い違うのではないか?勿論「そんな事ないわ、私は子供がいないけど、子アリの親友がいるわ」と言う人もいるだろう。そうして上手く付き合っていけるのは素晴らしい事で羨ましいとも思う。
だが現実に今私は疎遠になってしまった。それを強引に復活させようとするのは難しく感じるし、無理にそうしたいとも思わない。
それも母に言われてなんて。
だが母は私を納得させようと必死で、どんどん意見を押してくる。
私は仕方なく、以前、同窓会をした時の話をした。
「13人集まって私以外は全員子持ちだったわ。その同窓会の間、ずっと子供の習い事や学資保険や、安い子供服の情報交換だったわよ。最後には今度子供連れでまた集まろうって事になって、私も誘ってくれたわ。でも私が参加して楽しめると思う?」
母に話しているうちに、その時の情けない気持ちを思い出した。
その同僚達の一人一人はとても良い人達ばかり。会話の途中で私にも別の話題を振ってくれたりしていた。十分気遣いは感じられた。だが私は居心地が悪かった。
「優子と会っても同じ。優子は十分私に気を遣ってくれるわよ?でも優子が今一番関心があるのは子供で、その話題をしたいのが伝わってくるから、私も気を遣って子供の話題を考える訳。でもそれは昔と違うの。会った後に疲れてしまうのよ。きっと相手も疲れると思う」
すると母は、「子供がいない事を言い訳にしていると、この先孤独になるだけよ」と言った。
私は何も返せなかった。
これは言い訳なのだろうか?そんなに頑張って古い友人と連絡を取り合うべきなのだろうか?
母は「この先孤独になる」と言うけれど、友人関係においては私は今でも既に孤独だ。
その後その会話はどこにも着地せず、私が「そろそろ切るわ」と言って受話器を置いた。
しかし私の中では母に言われた事がずっと気になって残っていたのだろう。
違う違うと母に対する反発がありながらも、私の努力が足りないのか……と自問自答した。
そうして年明け、私は年賀状を出さなかった優子に、年賀状を兼ねてメールした。
「明けましておめでとう。ご無沙汰しています。今年は是非会いたいね。ランチでもしませんか?」
もう少し長いメールだったが、こんな感じ。
これを何度も消しては打ちを繰り返し、文面を悩みに悩んでやっと送った。
しばらくして返信があった。
正月の挨拶文の最後にランチへの返事が書かれていた。
「ごめんね。今年子供が受験で忙しくて。また来年には落ち着いているかな」
ほらね、やっぱり会う気なんてないでしょ?
その返信を見て、悲しいよりホッとしている自分が意外だった。
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