なりきれない
近所のスーパーで買い物をしていると、知人に声をかけられた。
近所に住む鬱友?
いや、友達ではないし鬱ですか?と確認した訳でもない。だが何年もかけてお互いの様子を知るようになった関係だ。
もう半年か一年か……忘れてしまったぐらい顔を見かけなかったので、また病院に入院しているのかもしれないと想像していた。
病院の入退院を繰り返している様なのであまり調子が良くないのだろうと思っていたが、スーパーで会った彼女はスッキリした顔をしており、知らなければ鬱病の人だとは気付かない。と言っている私も他人から見れば抗鬱剤を服用しているようには見えないのだろう。
「久しぶりですね」
「最近退院したばかりなので……」と彼女が言ったので、やはりまた入院していたのだと知った。
買い物の後、自宅へ帰る道を途中まで一緒に並んで歩いた。
何かお互い腫物に触るような話し方になる。傷つけてはいけない。余計な事を聞いてはいけない。
だがそれだけ気を遣うと話す内容も難しく、何を言えばいいのか分からない。
「今は?働いているのですか?」
そう聞かれたので少しと答えると、「そう、頑張りますね」と彼女は言った。
以前彼女と話した時、彼女は二度と働くつもりはないと言っていた。あんな嫌な思いは二度としたくないと。その時もこんな精神的に弱い私が無理して働こうとするのが理解出来ないようだった。
「無理しなくていいと思いますよ。旦那様がいるのだから」とこの日も前回と同じような事を彼女は言った。
こういう話をすると、無理する自分が間違っているような気持ちになる。
間違っているとまで言わなくても、嫌なら辞めればいい。嫌な人なら話さなければいい。もっとそんな風に自由になるべきだと。
何とか続けられるうちは……何とか外に出られるうちは……と、私はどこかで気を張っているし、行く場所がある事を苦痛にも支えにも感じている。
「疲れるでしょ?」と彼女は言った。
彼女は割り切っていて、私は働く事は無理だからと言い切る。
私もそうなった方が楽になれるのだろうか。
私は鬱病患者になりきれず、社会人にもなりきれない。
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