見覚えのある番号






電話が鳴った。
ナンバーディスプレイを見ると、どこかで見覚えのある番号が表示されている。

誰だっけ?
少し考えたが思い出せず、そのまま受話器を取った。

「ご無沙汰しています。Y会社の奥田です」

「あ!」

私はそう声を発したまま頭が真っ白になり、次の言葉が出なかった。

「お元気ですか?突然お電話させて頂き申し訳ありません」

電話の向こうでかつての上司が言った。

Y会社とはずっと昔私が勤めていた会社だ。
私が唯一自分らしく働けた職場。
私は仕事が好きだと思わせてくれた職場であった。その会社を退職後、なかなか合う職場が見つからない度、どうしてあの職場を辞めてしまったのだろう……と何度も後悔した。

その反面、その会社では仕事を任せて頂き責任もあった為、いつも気が張り詰めていて毎日神経が尖っていた気もする。退職した後も何年か……かなり長い間、その職場の夢を見た程だ。

しかし十年以上経ち、ようやくここ2、3年はその会社の記憶が私の中から消えていこうとしていた――まさにそんな時にかかってきた電話だった。

「お久しぶりです。皆さんもお元気ですか?」







私はようやく言葉を返した。
電話の主、奥田さんは私が勤めていた頃には頼りない上司であった。私も責任の重さと上司の頼りなさに堪り兼ねて爆発し、時々上司とぶつかる日もあった。今の私からは想像出来ない。あんなに感情を出せる時期もあったのだ。

「いや、最近皆でころりさんの話題になってね。どうしてるのかな?って。多分専業主婦じゃないのかなって言っているスタッフがいたものだから、一度聞いてみようと思い電話させてもらったんです」

「はぁ……」

私は話の内容が読めず、曖昧な返答をした。

「実は、今度一人退職する事になってね。次の人を探しているのだけどなかなか良い人が見つからなくてね。それで悩んでいたら、ころりさんならすぐに後任を引き継いで頂けるんじゃないかという話になりまして」

奥田さんの説明を聞いていると徐々に様子が分かってきた。

今度退職するスタッフは、以前私が担当していた仕事をしている様子。
その方が事情によりほぼ引継ぎや説明が出来ない状態で、急に退職する事になったそうだ。
なので全くの新しい方を採用しても、指導する人がいない為に困るのではないかと懸念しているのだった。

そこで以前その仕事をしていた私なら、さほど説明しなくても出来るのではないかという話になったらしい。

なるほど。

内容は分かったが、聞けば聞くほど「以前の奥田さんと変わっていないなぁ」と苦笑した。

誰もいないのなら自分がまず習得しよう、指導にあたろうという考えは全くない。
常に誰かに頼ろう、任せようとするのは変わっていない。
あの頃はそこに腹が立ち、こんな上司について行けない!と何度泣いたか分からない。

だが月日が流れた今、それもこれも微笑ましく思えた。
あー、そんな感じだったなぁ……なんて。


――続きます。






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Posted byころり
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