嘘
心療内科に行ってきた。
以前から心配していた薬の量の事だが、もっと余分に頂けないと心配で落ち着かないと医師に頼むと、しぶしぶという感じであったが一週間余分に出してくれた。これで少し気が楽になった。
しかし肝心の医師との会話は今までで一番しっくりこなかった。
医師が悪いのではなく、私の方がなぜか構えてしまう。
そして問題は医師に「嘘」をついてしまう事だ。
大袈裟な嘘ではないが、微妙にニュアンスを変えてしまう。
私はこの日も病院に行く前から何を話せばいいのか全く分からなかった。
医師はいつも私が席に座ると、「どうですか?最近は」と聞く。
最近、どうなのか?
自分でも良く分からない。
鬱が酷かった時にはもっと明らかに「辛い、怖い、泣ける、外に出られない、起きられない」等々、伝えるべき症状が多々あった。何を話すべきか?なんて考える余裕もなくて、声を発する事が出来るのかさえも不安な程、私は不安定に揺れていた。
そういう意味では今はそれ程問題がないからこそ、話すべき事を悩んでしまうのだろう。
この日も医師に「どうですか?」と聞かれ、私は事前に用意していた言葉を並べた。
「SADの症状はありますが、大丈夫な日もあるので以前よりは落ち着いている気もします」
嘘ではないが、何か違う。
実際のところ、職場では仕事内容が変わり人と関わる事が減った、それだけだ。本当の改善とは言えない。
だが医師を前にして「どうですか?」と聞かれれば、何か変化していなくてはならない気がしてしまう。
なので嘘をついているつもりはないが、自分で都合の良いようにまとめられた話し方をする為、医師には間違った情報を与えているように思う。
「それは良い傾向ですね。大丈夫な日もある、そういう日を大切に何度も乗り越える事で自信がつくのです」
と、医師が嬉しそうに笑い、私も「そうですね」と笑い返した。
だがまた誰かと関わる事が多くなれば狼狽えてパニックになる事もあるだろう。何も変わっていない。
それでも私はこれも性格の一部だと思って諦めるしかないのかな……と思い始めていた。意味のない薬ならやめてもいいかと。
だが医師は私とは逆に「それでは今日からお薬を増やしていきましょう」と言った。
私は戸惑ったが、医師はどうやらマニュアル通り、適正量まで今後どんどん増やしていくつもりらしい。
とりあえず医師の指示に従っているが、医師の見ている私と本当の私がどこか違っているような気がして、この先どうするべきか迷いつつ今日も薬を服用している。
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