シルバーカー





ある日の夕方。

愛犬と堤防を散歩していると、少し先に普段見かけない姿があった。

よく老人が荷物などを入れて押している手押し車――

シルバーカーというのだろうか?
一人のお婆さんがこれを道路の端に止め、荷物を入れる箇所の上にちょこんと座っていた。こちらには背を向けている為に顔は見えないが、その小さな後ろ姿から多分80代ぐらいだろうと想像した。

周囲を見ても家族らしき人はおらず、夕日の中で一人座るその姿はなんだか異様な光景だった。
ウォーキングや犬の散歩で通り過ぎる人達は気にならないのか、全く目を合わせる事なく隣を通り過ぎている。まるでその老人が存在しないかのようだ。

私はそのまま堤防を歩き進めた。老人の背中が目の前に近付いてくる。

どうしたんだろう?どこか痛いのだろか?疲れたのだろうか?声をかけるべきか?いや、迷惑かもしれない……

そんな事を迷っているうちに、その老人の横を通り過ぎてしまった。声をかける勇気はなかったが、チラリと顔を見ると穏やかな顔をした可愛らしいお婆さんだった。

私はそのまままっすぐ歩き、お婆さんと離れてしまったが、あのお婆さんがあのままどうするのか気になった。病院やスーパーのような場所でお婆さんが一人いるのを見かけてもこれ程気にならない。しかしここは堤防だ。どちらの方向に歩いても老人の足には遠いように思う。

なぜこんな場所に一人でいるのだろう?そんな事ばかりが気になった。



私はいつものコースを歩くのをやめ、今来た道を引き返した。声をかけられるかどうか分からないが、まだいますようにと願った。愛犬も黙って笑いながら付いて来た。まるで私の気持ちが分かっているかのようだ。

その場所に戻ると、お婆さんは歩き始めていた。

ゆっくりとシルバーカーを押しながら、トボトボとこちらに向かって歩いてくる。

何と声をかけるべきか……と、また迷っていると、突然そのお婆さんが私に話しかけてきた。

「あの、この先に行くと橋はありますか?」

「え?」

驚きつつも「あ、あぁ……橋ですか?えぇ、5分程歩くとあります」と伝えると、更にそのお婆さんは「その橋の横にバス停はありますか?」と聞いてきた。

「あります」

私がそう答えると、「どうもありがとうございます」と丁寧にお辞儀をしてお婆さんがまたトボトボと歩き始めた。

亀のようなあまりにもゆっくりとしたその歩き方を見ていると、思わず声が出た。

「どこかに行かれるのですか?よければ送りましょうか?」

お婆さんはゆっくりと振り返り、

「どうもありがとう。でも大丈夫です」と言ってまたお辞儀した。

私はしばらく愛犬と一緒にそのお婆さんの後ろ姿を見送った。
なんだか見ていると思うのだ。私も老後はあんな風に一人で堤防を歩くのかもしれないと。





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Posted byころり
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