普通の夢
悪夢を見るのが当たり前だった。
何年も前から、もしかしたら子供の頃からずっと悪夢しか見た事がなかった。自分のうめき声で目を覚ましたのも一度や二度ではない。いつも暗くて怖くて逃げなくてはいけない夢ばかりだった。
だがそれが最近変わってきた。
ある日目が覚めた時、いつもの不安感がない事に気付いた。いつもは目が覚めた瞬間、黒い闇が胸に広がるような感覚がある。何と聞かれれば上手く答えられないが、胸騒ぎのような、何か目に見えない未解決の問題が待っているような気がしていた。
だがこの日は違った。
あれ?いつもの闇がない。
窓から入る光が明るく感じる。寝室の空気が綺麗に感じる。
よく考えると、前日に見た夢が「普通の夢」だった事を思い出した。
楽しい夢とまではいかないが、知人と会話しているような日常的な夢だったと思う。今まで見ていた誰かに追いかけられるとか、誰かと口論するような夢ではない。普通の夢。
なんだか新鮮な気持ちだった。
私にしては珍しい事だったが、偶々だと思った。二十年以上も悪夢を見続けたのだ。そんな簡単になくなる訳がない。
しかし次の日も、その次の日も普通の夢だった。
そして目が覚めた瞬間の心の重さもなかった。
なぜだろう?薬のおかげ?
まだ薬を服用し始めてからそれ程経っていないし、以前服用していた時はずっと悪夢を見続けていた。
理由はよく分からないが悪夢から解放されたのは嬉しい。
今まで信じられなかったが、人は悪夢以外の夢を見るんだと実感している。
夫にこの話をすると、「僕は夢なんてほとんど見ないけど」と言っていた。
本当はそれが一番健康的なのかもしれない。
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