知人から抗鬱剤を受け取る
心療内科への通院の前日、私は悩んでいた。
院外処方箋をどの薬局に持って行くかという事。
前回は自宅近くの薬局で薬を受け取った。だが希望していたジェネリックを受け取る事が出来ずがっかりした。
今回はどうしよう?
また近所の薬局に行き取り寄せてもらう手もあるが、二度手間になったり日数が空くのが気になる。やはり病院付近にある薬局に行くべきか。
迷いつつ夫に相談した。
というのも、どの薬局かは定かでないが、その病院付近の薬局に、私と夫の共通の知人女性が勤めていると聞いた事があるのだ。知人のいる薬局で抗うつ剤を受け取るのは気まずい。
しかし夫の返答は意外なものだった。
「確かあの人、別の薬局に転職したって聞いた気がするけど」
え?そうなの?知らなかった。
それなら最初から病院近くの薬局に行けば良かった。色々と迷ったのがバカみたい。私は安堵して翌日病院に向かった。
医師と相談の上、薬は徐々に増やしていく事になった。私は処方箋を持って今度こそ病院近くの薬局に行った。
薬局の自動ドアが開き、白衣を着た受付事務員の女性が見えた。
私が一歩足を踏み入れた瞬間、その女性が顔を上げた。
私は心臓がビクッとした。
彼女はその知人だった。
転職したのではなかったのか?
それにしてもまさか丁度彼女が勤める薬局に入ってしまうなんて……不運過ぎる。
私は驚きのあまり咄嗟に目を逸らしてしまった。そしてそれと同時に目を逸らすなんて失礼な態度をしてしまった事を後悔した。
だが今更後戻りは出来ない。こうなったら気付かぬフリをするまでだ。
だが次の瞬間、彼女が言った。
「あの……ころりさん?」
やっぱり気付かれたか……と思いつつ私は答える。
「え?……あ!ご無沙汰しています!わ~気付かなくて。こちらの薬局にお勤めだったんですね」
自分でも白々しいと感じながらの演技。
だがその知人は優しい笑顔を向けながら、「ご主人もお元気ですか?」と、当たり障りのない会話をしてくれた。
だが薬を待ち、受け取って薬局を出るまでの5分程。……疲れた。背中も脇も掌も汗でびっしょり。
私は無理にハイテンションになり明るく振る舞い、知人も話題が途切れないように色々と話しかけてくれる。彼女の気遣いをヒシヒシと感じドッと疲れた。そしてしばらく時間が経つと、気を遣わせてしまった自分に落ち込んだ。やはり知人から抗鬱剤を受け取るのはお互い気まずい。
それにしても今後どうしよう。
一度行ってしまったのに次回からわざわざ違う薬局に行くのは悪い気がする。
だがまた今回のような気疲れを想像するだけで深いため息をついた。
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