指名
ずっと先延ばしにしていた美容室。
伸び放題の毛がボサボサになっていた。冬なら何とか我慢出来るが、この季節にはこれ以上は限界。美容室は苦手だが仕方なくネットで予約をした。今までは担当を指名していたが、前回待たされた事もあり「指名なし」とした。
毎回の事だが美容室に行くというだけで普段より身なりが気になる。
洋服は何を着ていこう?
靴はヒールだと躓くだろうか?
眉毛も整えなければ……。
日常生活では関わる事のないお洒落な空間とお洒落な美容師に囲まれると思うと、行く前からそんな事が気になる。
美容室のドアを開けるとキラキラした人達が笑顔で迎えてくれた。
私も無理にぎこちない笑顔を浮かべる。
「本日はよろしくお願いします」と言い近寄って来たのはベテラン風の40代ぐらいの女性だった。この美容室では最年長だろう。
若い美容師だと会話に困るのでこれぐらいの人の方が落ち着いていて気楽かもしれない……そう思ったが結果的にはいつも以上に疲れた。
セールストークが凄いのだ。
髪を触っている間、ずっとあるシャンプーを勧めてくる。説明が長い。
「そうですか、へぇ~」と適当に相槌を打ちながら、この話をどう終わらせようか、どう断ろうかという事ばかり考えていた。
だが私の気持ちに反してその美容師のトークは過熱し、
「ころりさん、以前シャンプーカウンセリングはされました?」と聞かれた。
何だそれは?と思いながら「いいえ」と答えると、すぐさまその美容師がアシスタントに目配せをした。
アシスタントが私の前に小さなボトルが並んだ籠を差し出す。どうやら私に会うシャンプーはどれなのかを選んでくれるらしい。
どうしよう……。どんどん話が進んでしまう。ここまでしてもらっては買わずに帰れないのでは?でもそんな高額なシャンプーは買う余裕がない。
悩む私を余所にカウンセリングはどんどん進み、私は断るきっかけを完全に失った。
仕方ない、今回だけは我慢して購入するべきか。いやいや、一度購入するとそれが当たり前になって次回さらに断り辛くなる。
その後の美容師の会話も耳に入らず、カットされている間もずっとその事で頭がいっぱい。
気持ちが決まらぬままカットが終わってしまい、会計に向かった。
ここでシャンプーを買う事になってしまうだろうと半分諦めていると、偶然会計を対応してくれたのが以前担当してくれていた若い女性だった。
彼女は微笑みながら、「今日はシャンプーを検討して下さったようでありがとうございます」と言った。
私が構えていると続けて彼女は「もし気に入って頂けたらいつでも購入にいらして下さいね」とサラリと言い、強引に勧める事はなかった。
良かった。あの40代のベテラン美容師よりずっとさりげない。
美容室の入り口に立ち、いつまでも見送ってくれるその若い美容師を振り返りながら、次回からはやはりこの人を指名しようと思った。
アシスタントが私の前に小さなボトルが並んだ籠を差し出す。どうやら私に会うシャンプーはどれなのかを選んでくれるらしい。
どうしよう……。どんどん話が進んでしまう。ここまでしてもらっては買わずに帰れないのでは?でもそんな高額なシャンプーは買う余裕がない。
悩む私を余所にカウンセリングはどんどん進み、私は断るきっかけを完全に失った。
仕方ない、今回だけは我慢して購入するべきか。いやいや、一度購入するとそれが当たり前になって次回さらに断り辛くなる。
その後の美容師の会話も耳に入らず、カットされている間もずっとその事で頭がいっぱい。
気持ちが決まらぬままカットが終わってしまい、会計に向かった。
ここでシャンプーを買う事になってしまうだろうと半分諦めていると、偶然会計を対応してくれたのが以前担当してくれていた若い女性だった。
彼女は微笑みながら、「今日はシャンプーを検討して下さったようでありがとうございます」と言った。
私が構えていると続けて彼女は「もし気に入って頂けたらいつでも購入にいらして下さいね」とサラリと言い、強引に勧める事はなかった。
良かった。あの40代のベテラン美容師よりずっとさりげない。
美容室の入り口に立ち、いつまでも見送ってくれるその若い美容師を振り返りながら、次回からはやはりこの人を指名しようと思った。
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