選挙のお願いと引きこもり批判
選挙の時期が嫌いだ。
あまり堂々とは言えないが、以前から選挙自体に興味がなくて投票に行くのも気が向けば……という程度だった。
その頃は選挙と聞いても良くも悪くも思わなかったが、嫌いになったのは今の地域に引っ越してきてからだ。
近所には熱心に選挙活動をしている人がいる。
普段は全く近所付き合いをしない私なので、その選挙主婦とも言葉を交わすどころか顔を合わす事もほとんどない。
だがその選挙主婦は決まってこの時期になると家にやってくるのだ。
私がこの地域に越してきてまだ間もない頃、その選挙主婦が初めて「選挙のお願い」にやってきた。
私はその人の勧める候補者の話を適当に相槌を打って聞いていた。普段付き合いがない分、こういう時ぐらい黙って頷いておいた方がいいような気がしたから。
すると、選挙主婦は選挙の話だけで終わらせるのは悪いと思ったのか、少し世間話をし始めた。それが近所付き合いの話題。
「ころりさんっていつも井戸端会議に顔出さないわね」
「家の中に籠ってばかりいたらダメよ」
ビシビシと痛い言葉が突き刺さる。
私は反論する事も出来ず、「そうですか」「そうですね」と繰り返すばかりだった。
相手は気を利かせて選挙以外の話題をしたつもりかもしれないが、それがどうして私の引きこもりへの批判になるのか。
きっと本人は批判したつもりではなく、もっと外に出て皆と仲良くしましょうよ、と誘ってくれているつもりだと思う。
だが私にとっては辛い言葉でしかなかった。
気にしないようにして日々過ごしているが、あんな風に面と向かって言われれば、嫌でも皆が私の事を暗くて引きこもっている人だと思っているんだと実感する。
最初の訪問がこんな感じだった為、それ以来その人が苦手な人となった。
その後も選挙となれば必ずその人は家に来る。
その度に一言二言、私の聞きたくないセリフを残していくので、ある日思い切って聞いてみた。
「あの……近所の他の方の家にも一軒ずつこんな風に訪問されているのですか?」
もし皆の所には行っておらず、うちにだけ毎回来ているというのなら、出来れば私も遠慮したい。
すると選挙主婦は答えた。
「行く家と行かない家はあるわよ。最初から聞く気のない人の所に行っても無駄だから。ころりさんはちゃんと聞いてくれるから嬉しくて来させてもらっています。これからもお願いしておきますね」と。
……もう今更断る勇気はなかった。
もし本当にただ選挙の話を聞くだけならもっと気楽なのに。
先日もまた「選挙お願いしますね」とその主婦が家に来た。
そしていつもと同じように近所の話題をし、「今度の自治会のバーベキューには来るんでしょう?」と念を押された。
「ちょっと用があって」と逃げると、「ダメダメ!いつもそんな事言ってるから元気になれないのよ!外にもっと出たら楽しくなりますからっ!」と、グイグイ押してくる。
重すぎる。どうして放っておいてくれないのだろう。
実家の母、近所の人、職場の人、考えてみれば私はいつも誰かに意見を押し付けられているような気分になる。
自分の受け取り方が悪いのか。または自己主張が足りなくて言われやすい空気を作ってしまうのか。
選挙がある度に私の心は落ち着かない。
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