母から感じるプレッシャー
どっぷりと落ち込んでいたその日、実家の母から電話があった。
いつもの様にナンバーディスプレイを見た瞬間、居留守を使うか悩んだが、やはりそれなりの老人になりつつある母の身に何かあったのではないかと思うと電話を取らない訳にはいかなかった。
しかし電話の向こうの母の声はいつもにも増して明るかった。
「女子会をしたの」と、テンション高く嬉しそうに笑っている。
どうやらいつも仲良くしている同年代の友人達とランチ会をしたらしい。私の母は昔からそういう集まりが好きだ。私とは正反対。
電話の内容は何て事はない。友人達との他愛もない会話の内容を聞かされただけだった。
母の友人達も皆私と同年代の子がいる。
皆子供……母達からすれば孫がいて、私の母だけがそういった会話に入れず居心地の悪い思いをさせているのではないか?と時々申し訳なく思う事もあった。
しかし私の母は強い。
以前は「子育てこそが女性の幸せ」だと言っていた母だったが、最近では「今は女性も一生働く時代よ」と考えが一変している。
母は常に自分を正当化、誇らしくいたいのだろう。
子供がいない娘を持つ母だが、母なりに友人達の前で精一杯幸せをアピールしているように見える。
当然他の友人達は孫の話題が多いらしい。
娘がいる人は言う。「子育て優先で今は簡単なパートでしか働けないらしいわ」
それは多分普通の事で私には叶わなかった幸せな生活だ。
だがそれに対し私の母は、
「うちの娘は資格を活かして仕事をしているわ。本当なら正社員で働きたいんだけど、今は様子を見ているの」
そんな事を友人達に言っているらしい。
恥ずかしくて情けない。
いつ私がそんな事を言ったのか。勝手に理想の娘像を作り上げている。
現在母は、私が派遣で少し働いている事や仕事内容をほんの少し知っているだけだ。
実際わざわざ他人に自慢出来るような事は何もしていないし、週2日の派遣を「働いている」なんて堂々と言う程の事ではないのに。
そして母は言う。
「皆ね、ころりさんは偉いねって褒めていたわよ。子供がいる娘達は簡単なスーパーのレジ打ちぐらいしか出来ないわって」
そう言いながら本気で喜んでいる母が痛い。
そしてその「うちの娘は出来る」という間違った思い込みがずっと私にプレッシャーをかけ続けてきた。
他人の言葉は社交辞令、慰め、もっと言えば嫌味かもしれないのに、どうしてそこまで自分の都合の良い受け取り方が出来るのか、真逆な私には信じられない。
こういう話を聞く度、母には近況を何も言うまいと強く決意するが、結局母とうまく距離が取れず、同じ事の繰り返し。
この10年程は鬱病で仕事どころではなく、母も私の精神面を優先して考えてくれていると思っていたが、今はもうすっかり治ったと思っているようだ。
鬱に治ったという線引きはないというのに。
もし私が今の派遣の仕事を辞めてしまったら、母をまた失望させる。そう思うと自分で自分が許せない。仕事を続ける事は辛いが、辞めて家にいる事もまた辛い。
いっそ母は自分の友人達に言って欲しい。
「うちの娘は引きこもりの鬱病で、何も出来ないダメな娘だ」と。
そしたら楽になれるのに。
よく読まれている記事