偽善者
――前回の続き。
手紙を読み終え、私は本当に女性と関わるのが嫌になった。
どうしてこうなってしまうのだろう?私が悪いのだろうか?自分では気付いていないだけで、私の傲慢な面が他人に伝わってしまうのだろうか?それとも弱すぎて単に人の攻撃の的になりやすいのか?
悶々と考えたが答えは出ない。もう仕事は辞めてしまいたかった。
ただ、連休という事もあり、このまま手紙を手に握ったまま悶々とした日々を過ごす事がとてつもなく苦痛に思えた。
そこで私は思い切って彼女の携帯に電話をかけた。腹を割って話さなければと思ったから。
緊張はピークで、上手く話せるのか、結果がどうなるのか分からなかったが、今この勢いで言ってしまわないと、時間が経つほどくじけてしまいそうだった。
「手紙読みました」
私が言うと、彼女は「あ~うん。分かってくれたらいいの。これから気を付けてもらえればいいし」と言った。
私は「気を付けるってどういう意味ですか?」と言った。緊張し過ぎて声が震える。
彼女は手紙に書いていたディナーショーや仕事の割り振りなどを持ち出して説明してきたが、私は自分なりに精一杯気持ちを伝えた。
「私はディナーショーに空きがあって困るって言われたから都合をつけただけですよ?気を引こうとしているなんて思う方が変じゃないですか?」
「仕事だって私は上司の指示通りにしているだけです。私だって喜んであなたに指示している訳じゃない」
それでも彼女は次々とたまっていた不満を言い始めた。
「ごめんね、こんな事言って気を悪くしないで欲しいんだけど……。ころりさん、私との格差を気にしているのかなって。学歴差とか子供の事とか……ご主人の収入とか。着ている服もちょっと安めじゃない?それなのに時々私に洋服の話をしたりしてくるから、僻まれているのかな……と思って」
私はバカバカし過ぎて緊張も解け、ハッキリと言った。
「私と酒家さん、何か共通点ありますか?無いじゃないですか?私だって出来るだけ仲良くしようと何か話さなきゃってこれでも思うんです。そしたら洋服の話ぐらいしかなかっただけですよ?それがどうしてそんなに悪いんですか?」言いながら悲しくて涙を堪えるのに必死だった。
学歴差を気にしているのは事実だったが、それを理由に彼女に悪い態度をした覚えは全くないし、逆にこんな私が指示をしていいのかと気を遣う事ばかりだった。
すると彼女は、
「ころりさんって真面目でいい人ぶっているから」と言った。
私は「別にそんなつもりはないですけど、いい人でありたいと思う事は悪いですか?」と涙ぐみながら返した。
そうして私が珍しく色々と意見したからか、ようやく彼女は「ごめん、私ころりさんの事誤解していたわ」と言った。
だが私は本当に分かり合えたなんて思えなかった。
それよりも本当は弱い私が下手に強気に言い返してしまった事で、今後更に付き合い辛くなってしまうのではないかと早速後悔した。
きっとパート主婦達の噂のネタになってしまうかもしれない。
心がモヤモヤしたまま電話を切った。
確かにずっと「出来るだけいい人でいたい。人付き合いが苦手でも悪口を言わず真面目にしていれば分かってくれる人はいるはず」と信じてきた。
それが「いい人ぶっている」なんていう目で見られるのだと初めて知った。
私の態度が偽善者に見えるのだろう。悔しくて泣けてくるが、ある意味事実かもしれないと思った。
私は表面上は温厚で大人しく、謙虚で正論しか言わない。だが本当は人を羨んだり妬んだり、心の中は真っ黒だ。それを彼女に見透かされていたのかもしれない。
それでもやはりこんな風に「いい人ぶっている」と相手にハッキリ言う事が、「いい人ぶっていなくて良い」なんて思えない。
こんな事があり、私はますます心のシャッターを閉めたくなった。
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