悪夢
「ビックリするわ!」
そう言う夫の大声で目が覚めた。
「またか……」そう思いながらも私は汗をかき、胸の鼓動はまだドキドキしている。
いつの頃からかこの数年、私は寝言が酷いらしい。
それも「可愛らしい寝言」なんていうものではなく、「うわぁっー‼」とか「ギャーッ‼」という絶叫に近いものが多いので、隣で眠っている夫は私のその絶叫で飛び起きるらしい。
自分で全く自覚がない訳ではなく、その直前にはいつも苦しい夢や怖い夢を見ているし、時には自分の絶叫で自分自身の目が覚める事もある。
数年前には夫も私も「酷い寝言だね」と言いながら笑っていたが、その後その症状が悪化していった。
絶叫で目覚める事もあれば、寝言は一切ないが突然ハッ!と飛び起きる事もあった。
そんな時は汗だくで動悸が激しく、今まで見ていたのは夢だと理解するまでしばらく時間がかかる。
そして、その後落ち着いて再度眠ろうと横になると、今度は全く眠れない。
体を横にすると胸が圧迫されるような息苦しさがあり、何もしていないのに再び動悸が酷くなってくるのだ。軽い羽毛布団が重く感じられてとても寝ていられない。
仕方なく体を起こすと、その息苦しさが嘘のように治まる。
そんな事が何度もあった。
心療内科で相談すると、それは「夜驚症」だと言われた。
ネットで検索すると多くは子供がなる症状らしいが、大人でもストレス等でなる事があるらしい。
その後は夜眠るのが怖くなってきた。不思議と昼寝の時にはそれ程その「夜驚症」の症状は起きず、決まって夜にその症状が現れた。
しかし鬱病の治療をしているうちに、その酷い症状は少しずつ改善されてきた。
今では息苦しくて眠れないという程の症状はない。
だが、相変わらずあるのが「絶叫」または「寝言」だ。
そもそも、私は楽しい夢を見た事がない。
楽しい夢を見る事が少ないとかいうレベルではなく、多分大人になってからは、一度も楽しい夢は見ていない。100%と断言できる程、毎日苦しかったり怖い夢を見る。
夫にそれを話すと、「僕は夢なんて滅多に見ないし、もし見ても覚えていない」と言う。
私は違う。
必ず毎日見ているし、まるでそれは映画でも観ているかの様で、目覚めた後は夫に「あらすじ」を話す事が出来るぐらい覚えている。
夜中に私の「ギャーッ!」という絶叫で起こされ、深夜に夢のあらすじを聞かされる夫というのも、客観的に考えると大変そうで苦笑してしまうけれど。
そして毎回「悪夢」だという事が不思議でならない。
時には私にだって気分の良い日がある。毎日悩みながら眠りにつく訳ではない。
それなのに見る夢は決まって「悪夢」。
ある日、眠る直前に私の大好きなアットホームな海外ドラマを観てから眠った。幸せな気分のまま眠れば違う夢になるかと。
しかしやはりこの日も悪夢だった。
なぜだろう?分からない。
時々テレビで、「すごく幸せな夢をみた」とか話しているのを聞くと、本当に楽しい夢を見る事ってあるんだなぁ……と信じられない気持ちになる。それ程私にとってはあり得ない事だから。
生きているうちに一度はその「楽しい夢」を見てみたい。
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