怒らせたい
いまTVでやっているドラマ「わたしを離さないで」。
今まで観ていても、どこか自分の子供時代を思い出す部分があると思っていたが、前回でそれは更に増し、とても印象に残ったセリフがあった。
「恭子を怒らせたかった。そしたら本当の友達になれるような気がした。」
観ていない人は分からないと思うが、美和というワガママな女性が親友恭子に言ったセリフだ。
* * * * *
私は小学生の頃、大人しかったがごく普通に何人かの友人がいた。
数人程のグループで、皆も私を大切にしてくれていたし、私も放課後に皆と遊ぶのが楽しみだった。
そのうち、私にはある一人の新たな友人が出来た。
彼女の名前は洋子ちゃん。
洋子ちゃんはいつもクラスで一人きりで居るような子だった。でもいじめられっ子ではない。成績は優秀で、生徒会長をするような子。意見もハッキリと言えるし、周囲に流されない、あまり子供らしくない子だった。
私達があるアイドルグループの事でキャッキャッと騒ぎながら、「洋子ちゃんはどの人が好き?」と聞くと、「そういう事には興味がない」と冷ややかな目で答え、立ち上がりどこかに消えてしまった事もあった。
私とは全く違うタイプの洋子ちゃん。なのになぜ私達は仲良くなったのだろう。
多分、彼女は常に本を抱えているような読書好きで、そういった共通の話題で話し始めたのがきっかけだった気がする。
気付けば私はいつも洋子ちゃんと二人で過ごすようになっていた。
学校でも放課後も常に洋子ちゃんと一緒だ。半年程は私も心から楽しんで過ごしていたように思う。行く場所も遊ぶ内容も全て洋子ちゃんが決める。優柔不断な私にとって、常に引っ張ってくれる洋子ちゃんは頼れる存在であった。
だが半年、1年と経ってくると、徐々に洋子ちゃんの気の強さが負担になってきた。
私が洋子ちゃんの理想とする行動や返事をしないと怒り出す。
時々、他の友人と遊ぶから「今日は遊べない」と言うと、洋子ちゃんは猛烈に興奮して怒鳴った。
私はいつの間にか、洋子ちゃんが怒らないように行動し、洋子ちゃんの機嫌ばかりを気にするようになった。
読書好きな洋子ちゃんとは、よく感想を語り合った。
まず先に私が感想を話すように言われる。言われた通り私は感想を言ってみるが、それが洋子ちゃんと同じ感想でないと機嫌が悪くなり、「どうして理解出来ないの?頭悪い!」と怒られた。
そして洋子ちゃんは怒りがピークに達すると、私に物を投げつけたり、殴ったりする事があった。
「……洋子ちゃん、やめて。痛いよ……」私はそう言いながらもなぜか怒ったり嫌な顔が出来ない。苦笑いしながらただひたすら洋子ちゃんがぶつけてくる物と感情に耐えた。
しばらくしたら怒りが収まる事もあり、「あ~あ、疲れた」と言って洋子ちゃんの機嫌が元に戻り私はその度にホッとした。
その頃、私が元々仲の良かったグループの友人達が、
「洋子ちゃんってワガママでしょ?私達のところに戻ってきなよ」と言ってくれた事があった。それなのに私は洋子ちゃんが怒る事を想像すると怖くてそれは出来なかった。
「洋子ちゃんといるよ」と私が友人達に言うと、次第に友人達も呆れたのか、私を想ってくれるあまり腹が立ったのか、「私達よりも洋子ちゃんが良い訳?」と少し怒り始めた。
「それじゃ好きにすればいいわ」と言われ去っていく友人達を見た時、一人ぼっちになった気がした。
――続きます。
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