しかめ面
実家の母の体調が悪いと電話があったので、仕方なく様子を見に行った。
玄関を開けると、母が不機嫌そうなしかめ面で出てきたので私は内心ため息をついた。
「またか」
母は気分や調子が悪い時、それがそのまま表情に出る。
私のように調子が悪くても無理に大丈夫そうな表情を装ってしまう人間からすれば、あまりにも母の表情が露骨過ぎて、なぜか私が悪いような気分になる。
「大丈夫?」私はオドオドと声をかけた。
「…………もう二日程前からずっとこの調子……眩暈と吐き気、腹痛も酷い……」
母は不機嫌な顔のまま、低い声でそう言った。
「病院にはちゃんと行ったの?」
いつもの事なのでそこまで心配はしていなかったが、一応それらしき言葉をかける。
「別に……いつもの事だし……そのうち治るだろうし……」
そうなのだ。
母は時々こういう状態になる。ある日プツッと糸が切れたかのように、こんな日が訪れるのだ。そして私は不機嫌な電話を貰い、娘として仕方なく顔を出す。
私は「いつも病院の検査で悪いところはないんだし、精神的なストレスとかじゃないの?」と言った。
私から見れば母も精神を病んでいる。
だが母に対し、そんな話題をしても聞く耳を持たない。
「一度心療内科に行ってみなよ。自分が思っているより精神的にストレスがあるかもしれないし、ちゃんとした薬を合わせてもらえば、今の不調も良くなるかも」
だが私がそう言っても、母はそれ以上言うなとでも言いたげに、手を横に振り私の話を遮った。
「歳なんだから、時々これぐらい体調が悪くなって当然よ」
母は自分が精神的に弱いとか、問題があるなんて事を認めようとしない。
そんな頑固な部分がそっくり似てしまった自分自身も嫌だった。
「それはそうと、この前近所のスーパーで前田さんに会ってね――」
そのうち母は自分の近況を話し始めた。
「ふんふん」と適当に相槌を打ったり、それなりに母が喜びそうな「そう、凄いね」とか、「分かるよ」なんて同意した言葉を言ってあげると、母のテンションは上がり、
「そうでしょ?」と、表情が和らぎ、楽しそうに話を続ける。
最初の不機嫌顔はどこへやら。
結局この為に家に呼ばれたのだな……とため息をついた。
――続きます。
だが母に対し、そんな話題をしても聞く耳を持たない。
「一度心療内科に行ってみなよ。自分が思っているより精神的にストレスがあるかもしれないし、ちゃんとした薬を合わせてもらえば、今の不調も良くなるかも」
だが私がそう言っても、母はそれ以上言うなとでも言いたげに、手を横に振り私の話を遮った。
「歳なんだから、時々これぐらい体調が悪くなって当然よ」
母は自分が精神的に弱いとか、問題があるなんて事を認めようとしない。
そんな頑固な部分がそっくり似てしまった自分自身も嫌だった。
「それはそうと、この前近所のスーパーで前田さんに会ってね――」
そのうち母は自分の近況を話し始めた。
「ふんふん」と適当に相槌を打ったり、それなりに母が喜びそうな「そう、凄いね」とか、「分かるよ」なんて同意した言葉を言ってあげると、母のテンションは上がり、
「そうでしょ?」と、表情が和らぎ、楽しそうに話を続ける。
最初の不機嫌顔はどこへやら。
結局この為に家に呼ばれたのだな……とため息をついた。
――続きます。
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