身の縮む思い
「ころりさん、一緒にどうですか?」
派遣先にて上司に声をかけられた。
取引先からある歌手のディナーショーのチケットを譲り受けたらしい。日時は平日の夜。
10枚程度あるらしいが、空席を作ってしまっては失礼だという事で、上司は社員達に「誰か行ける人いないか?」と声をかけていた。
だが社員達は最近残業続きで、忙しさのあまりとてもそれどころではないという雰囲気。
上司が皆に向かって声をかけても反応した人は数人で、特に正社員は男性が多い為にあまり興味もない様だ。
上司は他に行ってくれる人はいないかと、パート主婦達に問いかけた。
だがパートの中には幼い子を持つ主婦も多く、「夜に家を空けるのは無理です」と言われてしまえば上司もそれ以上無理強いは出来ない。
そんな時、積極的に「行きたーい!私行きます!」と楽しそうに手を上げるのが、既に子供は独立し、家に居ても楽しくないと毎日愚痴を言っている50代主婦達。
プライベートでも一緒に旅行に行ったり飲み会を頻繁にしている彼女達は、タダでそのチケットを貰えると聞き、これは行かなきゃ!と目が輝き出した。
特に売れている歌手ではなく、私は名前も知らなかった。多分その主婦達も知らない様子だったが、彼女達にとって行く場所なんてどうでもいいのだろう。何か皆で楽しめる予定を入れる事が重要なのだから。
そのパート主婦達で5枚決まった。
するとあと1枚だけが残ってしまい、「他に行ってくれる人はいませんか?」という状況になった。
私はこういうのはもちろん苦手。
プライベートで皆と関わりたくないし、ホテルで行われるディナーショーとなれば食事の時間も考えると、どれだけ長時間になるかと想像するだけでウンザリする。
それもチケットを受け取ったパート達は、私がいつも苦手とする賑やかなグループだ。
私は他人事のような顔をして黙々と仕事をしていた。
心の中では「私は派遣だから関係ない」と自分に言い訳をしていた。
だが、上司が名指しで私に話を振ってきたのだ。
「ころりさん、どうですか?」
ドキ!とした。
騒がしいパート主婦達がこちらを見つめている。
「あの、申し訳ないのですがその日は予定がありまして……」
私が断ると上司は困った様子で、「そうですか。でもこの歌手の歌はなかなか良いって評判らしいですよ?食事も豪華だし。行きましょうよ」と、こちらが予定があると言ったにも関わらず引いてくれない。
嘘の言い訳だと見透かされているのだろうか。
その間、パート主婦達はジッとこちらを見つめているだけで何も言わない。
もし、彼女達も「行きましょうよ」と言ってくれれば、こちらも付き合いだと思い我慢して行くかもしれないが、どう見てもパート主婦達は私に共に来て欲しいと思っている様に思えなかった。
すると、私の隣にいた同じ派遣女性、酒家さんが、
「私、そのチケット頂いてもいいですか?行きたいです」と自ら手を上げた。
当然彼女はそういう事に参加するのが好きなタイプだと分かっていたが、彼女の子供はまだ幼い。それを知っていたからこそ、上司もあえて酒家さんには最初から声をかけなかったのだと思う。
「え?助かるけど、家の方は大丈夫?」と上司。
「主人に頼みますので大丈夫です。皆さんと一緒に行けるなんて楽しみです~」と彼女は満面の笑みを浮かべた。
ホッとした。取り敢えず自分には関係なくなった。
でもまた酒家さんとの差を感じる事となった。
彼女は本当にこのディナーショーに行きたいのだろうか?それとも皆との距離を縮める為に、努力しているのだろうか?
どちらにしても私とは真逆の人だ。
あんな風になれないけれど、上司の「酒家さんは付き合いがいいから助かるよ」という声を聞いていると身の縮むような思いがした。
騒がしいパート主婦達がこちらを見つめている。
「あの、申し訳ないのですがその日は予定がありまして……」
私が断ると上司は困った様子で、「そうですか。でもこの歌手の歌はなかなか良いって評判らしいですよ?食事も豪華だし。行きましょうよ」と、こちらが予定があると言ったにも関わらず引いてくれない。
嘘の言い訳だと見透かされているのだろうか。
その間、パート主婦達はジッとこちらを見つめているだけで何も言わない。
もし、彼女達も「行きましょうよ」と言ってくれれば、こちらも付き合いだと思い我慢して行くかもしれないが、どう見てもパート主婦達は私に共に来て欲しいと思っている様に思えなかった。
すると、私の隣にいた同じ派遣女性、酒家さんが、
「私、そのチケット頂いてもいいですか?行きたいです」と自ら手を上げた。
当然彼女はそういう事に参加するのが好きなタイプだと分かっていたが、彼女の子供はまだ幼い。それを知っていたからこそ、上司もあえて酒家さんには最初から声をかけなかったのだと思う。
「え?助かるけど、家の方は大丈夫?」と上司。
「主人に頼みますので大丈夫です。皆さんと一緒に行けるなんて楽しみです~」と彼女は満面の笑みを浮かべた。
ホッとした。取り敢えず自分には関係なくなった。
でもまた酒家さんとの差を感じる事となった。
彼女は本当にこのディナーショーに行きたいのだろうか?それとも皆との距離を縮める為に、努力しているのだろうか?
どちらにしても私とは真逆の人だ。
あんな風になれないけれど、上司の「酒家さんは付き合いがいいから助かるよ」という声を聞いていると身の縮むような思いがした。
よく読まれている記事