冷たいベンチ





昨年末、近所のスポーツジムに通っていた。
会員になる決心が付かなかったので回数券を使って。

ジムに行くと周囲の人と目も合わさず、黙々とただ前だけを見つめて運動していた。そして人が少ない時間帯を選んで行く。

どこかで出会いが欲しい、友人が欲しいと言いながらも、無意識に人を避けてしまう私は友人を作るきっかけを自ら無くしている。

そんな中でも一人のインストラクターと少し仲良くなったが、その方が出産の為に退職された為に、私もその頃から同じく行く事をやめてしまった。いつもの事ながら何も長続きしない。

その後、器具がないので家で筋トレは難しいが、せめてウォーキングぐらいはしようと思った。

だが以前、夕方近所を歩いてみると、近所の人で散歩している人が多くて、すれ違う度に気疲れした。無心で歩けない。

なので夜遅くに歩こうとすると、夫から「危険だ」と言われて諦めてしまったが、今回は「明るい車道に面した歩道を歩くから大丈夫」と何とか説得した。

夫が渋々納得してくれたので、ある日の夜21時に家を出た。
この時間なら近所の人と会う事もないだろうと思ったから。だがこの季節、さすがに寒い。冷たい空気が顔に突き刺さる。

しかししばらく我慢して防寒着に包まれながら速足で歩いていると、10分も経てば寒さは気にならなくなった。
明るい車道に面しているとはいえ、ほとんど人のいない歩道を黙々と歩くのは孤独であり気楽でもある。この方が夕方に近所の主婦と会うよりはずっとマシ。そう思いながらズンズンと歩いた。

すると、前方から二人の人影がこちらに向かって歩いてきた。

風に乗って聞こえてくる声からすると、同年代か、もう少し若い女性二人の様子。
どんどん近付いてきて、二人が揃いのスポーツウェアを着ている事に気付いた。

私は目を合わさないように下を見ながら通り過ぎようとした。
すると一人の女性に、

「ころりさん?」と言われた。

「え?」



あまりに驚いて胸がドキドキと脈打ち、一気に体温が上がったような気がする。

顔を上げて相手をよく見ると、それは近所の主婦二人だった。
二人とも帽子を被っていたし、夜だった事もあり私は全く気付かなかったが、よりにもよってこんな時にこんな場所で近所の主婦と会ってしまうなんて。

その主婦二人は、私から見てもいつも仲が良さそうだった。
子供が同年代で、家が隣同士。
家族ぐるみでキャンプにも行っていると以前聞いた事があった。

家が隣でそんな深い関係になるなんて疲れないのかな……そう思う自分と、近所にそこまで心を許せる相手がいるなんて羨ましいと思う自分がいた。

一人の主婦が聞いた。

「ころりさん、こんな所で何してるの?」

咄嗟にウォーキングとは答えられなかった。これならまだ夕方の方がウォーキングと答えやすい。こんな夜遅くに主婦が一人でウォーキングしているなんて、孤独で可哀想だと思われそうで恥ずかしくて言えない。

それも相手は二人仲良く夜のウォーキングを楽しんでいるのだから。

「ちょっと買い物に……」

幸い、その道の先にはコンビニがあった。

「そっか。でもこんな夜に一人で危ないよ、気を付けてね」と言い、二人は笑いながら立ち去った。

遠ざかる後ろ姿。その揃いのウェア姿を見送りながら、何だかもう歩く気はなくなってしまった。

ジムに行こうが近所を歩こうが孤独感は同じ。
健康の為の運動だ、人の事は気にしてはいけない。いくら自分にそう言い聞かせても、この寒空で一人歩いている自分が虚しくなった。
さっきまで明るく見えていたこの歩道も、道の先を見るとどんよりとした暗闇に包まれているような気がした。

もう先に歩く気になれない。
しかし今すぐ家に帰れば先程の主婦達と鉢合わせしてしまうかもしれない。

私は歩道の途中にあるベンチに腰をかけ、しばらく時間が経つのを待った。
何やってるんだろう、私。




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Posted byころり
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