ごめんね
――前回の続き。
さっちゃんが来ると決まり、私はどこか落ち着かなかった。
友人が家に来る……というか、誰かが家に遊びに来る事自体が久しぶりだった。
もう何年も誰一人として家に呼ぶ事はなく、誰も来ない日々が続くと掃除や片付けも手抜きになり、現在は家の中が乱雑としている。
何とかしなくては。
私はさっちゃんが来るまでの数日間、片付けと部屋の模様替えに励んだ。お客様用の可愛いスリッパを購入し、クッションカバーやカーペットまで買い替えてしまい、少しテンションが上がり過ぎている自分がそこにいた。
さらに、昼の2時頃に来る予定だった為におやつやお茶の準備をしておく事にしたが、雑貨屋に行った時に可愛い食器を見つけてしまい、彼女が来た時にその食器を使ったら楽しそう!――そして食器まで購入するという、ちょっと自分を見失うぐらい頑張り過ぎていた。
本当はカーテンまで買い替えたい衝動に駆られたが、さすがにそこは何とか我慢した。
そしていよいよ彼女が来る日となった。
彼女はカーナビーでほぼ近くまで来てくれた様だったがその先が分からなくなり、「今近くまで来てるんだけど」と電話があった。
私は徒歩で3分程先の曲がり角まで彼女を迎えに行った。
電話越しでナビしていると、それらしき車が前からゆっくり近付いてきた。
あ、さっちゃんだ!ほとんど印象が変わっておらず、こちらを見て手を振っている。
私も嬉しくなり手を振りながら近づいた。
しかし、車に近付きながら、自分の表情が固まるのが分かった。
車の助手席に誰か居る。
さっちゃんは私の目の前で車を停め、すぐに車を飛び出してきて「ごめんね!ごめんね!」と真っ先に謝った。
一体どういう事なのか?私はさっちゃんが一人で来ると思っていた。この助手席の人物は誰なのか?
「友達も一緒に行きたいって言うから連れて来ちゃって……」とさっちゃん。
しかし私は気付いていた。そんな理由じゃない。これは最初から何か目的があったんだって。
私は「別にいいけど……。取り敢えず私の家、すぐそこだから」と彼女達を誘導した。
ここで「それなら帰って下さい」とも言えない。
家の中に招き入れると、さっちゃんとその「ご友人」は、しきりに家を褒めちぎった。
「凄ーい!豪邸!」
「お洒落ですね!」
「ころり、いいね、こんな素敵な家なんて羨ましいわ」
もうお世辞はいいですから。
内心そう思いながらも私は愛想笑いを浮かべ、「そんな事ないわ。こんな狭い家でごめんね」と表面的な会話をした。
さっちゃんが純粋に私と会いたかった訳ではない、何か他の理由があるんだと思うと気分が落ちた。
それでも折角購入したティーカップでお茶とお菓子を出した。
あんなにテンションが上がり準備していた自分がバカみたいだ。その新しくてお洒落なティーカップが更に虚しさを増した。
そしていよいよご友人が本題に入った。
「突然押し掛けてすみません。幸子さんと私、今こういう仕事をやっていまして……」と名刺を差し出された。
話を聞いていると、どうやら補正下着の訪問販売をやっているらしい。
それを私に売りに来たという事だ。
そのご友人は営業慣れした話し方で、テキパキとその補正下着の良さをアピールしているが、その隣でさっちゃんは小さくなり居心地悪そうに座っていた。
そして時折、「本当にごめんね」と何度も私に謝る。
ご友人が、「とりあえず試着してみましょうか」と、今すぐここで私に試着させようと勧めてきた。
流石にこれには私も黙って従えず、「いえ、本当に私には必要ないですから。買う事も出来ませんし」と返した。
するとそのご友人、
「それはそうですよね。ころりさんの様なスタイルの良い方に補正下着は必要ないと思うのは当然です。ですが、一度着用してみて下さい。心地の良さが分かりますから」と言い、全く引く気配はない。
「ご購入頂かなくて結構なんです。とりあえず試すだけで」と言い続けるが、ここで試すなんて人が良過ぎるだろう。
私は頑として試着しなかった。その会話をしている間、さっちゃんはずっと俯いているし、私も彼女を見ようとしなかった。
ようやくご友人が諦めてくれて、さっちゃんと帰る気配となった。
去り際、さっちゃんはやはり私に「ごめんね」とだけ言った。
この日さっちゃんから聞いた言葉は、ほとんど「ごめんね」だけだった。
「ううん、いいよ気にしないで」と私は笑顔で答えたが、心はずっと遠く離れていた。
* * * * * *
そんな事があり、今年の年賀状はもう私からさっちゃんには出さない。
怒ってる訳ではなく、ただ悲しかったから。
もう昔の友人という関係でさえもないと思うから。
ただ、しきりに私に「ごめんね」を繰り返していたさっちゃん自身も、なんだか辛そうで悲しく見えたのが切なかった。
内心そう思いながらも私は愛想笑いを浮かべ、「そんな事ないわ。こんな狭い家でごめんね」と表面的な会話をした。
さっちゃんが純粋に私と会いたかった訳ではない、何か他の理由があるんだと思うと気分が落ちた。
それでも折角購入したティーカップでお茶とお菓子を出した。
あんなにテンションが上がり準備していた自分がバカみたいだ。その新しくてお洒落なティーカップが更に虚しさを増した。
そしていよいよご友人が本題に入った。
「突然押し掛けてすみません。幸子さんと私、今こういう仕事をやっていまして……」と名刺を差し出された。
話を聞いていると、どうやら補正下着の訪問販売をやっているらしい。
それを私に売りに来たという事だ。
そのご友人は営業慣れした話し方で、テキパキとその補正下着の良さをアピールしているが、その隣でさっちゃんは小さくなり居心地悪そうに座っていた。
そして時折、「本当にごめんね」と何度も私に謝る。
ご友人が、「とりあえず試着してみましょうか」と、今すぐここで私に試着させようと勧めてきた。
流石にこれには私も黙って従えず、「いえ、本当に私には必要ないですから。買う事も出来ませんし」と返した。
するとそのご友人、
「それはそうですよね。ころりさんの様なスタイルの良い方に補正下着は必要ないと思うのは当然です。ですが、一度着用してみて下さい。心地の良さが分かりますから」と言い、全く引く気配はない。
「ご購入頂かなくて結構なんです。とりあえず試すだけで」と言い続けるが、ここで試すなんて人が良過ぎるだろう。
私は頑として試着しなかった。その会話をしている間、さっちゃんはずっと俯いているし、私も彼女を見ようとしなかった。
ようやくご友人が諦めてくれて、さっちゃんと帰る気配となった。
去り際、さっちゃんはやはり私に「ごめんね」とだけ言った。
この日さっちゃんから聞いた言葉は、ほとんど「ごめんね」だけだった。
「ううん、いいよ気にしないで」と私は笑顔で答えたが、心はずっと遠く離れていた。
* * * * * *
そんな事があり、今年の年賀状はもう私からさっちゃんには出さない。
怒ってる訳ではなく、ただ悲しかったから。
もう昔の友人という関係でさえもないと思うから。
ただ、しきりに私に「ごめんね」を繰り返していたさっちゃん自身も、なんだか辛そうで悲しく見えたのが切なかった。
よく読まれている記事