気を遣わせる人
――前回の続き。
こんな自己主張の強い女性と関わりたくない気持ちでいっぱいだったのに。
だが、社員の人達はそんな事に関わっていられない、勝手にやってくれという顔をしているし、パート達は仕事内容が違う為に教えるのは無理だ。
私も教える事自体は嫌ではないが、相手が彼女だから嫌なのだ。
仕事が出来ないという事も、決してバカにしている訳ではなく、経験が少ないのなら出来ないのは当然だ。説明してもらえなくて困る気持ちも分かる。だがその事に対する彼女の姿勢、訴え方が嫌なのだ。どうしてもっと謙虚になれないのだろう。
それでも上司から言われてしまっては断る事も出来ず、一応「私に説明出来るか自信ないです……」と弱い抵抗を示してみたが、「じゃあ、そういう事でお願いします」と彼女を託して行ってしまった。
あぁ、もう私も帰りたい。彼女と同じ日に来たくない。気分が落ち過ぎて吐き気がしてきた。
だが目の前には「さぁ、早く教えなさいよ」と女王様ばりの顔をした彼女が待っている。
仕方なく私は彼女にこの仕事のイロハのイから説明し始めた。
これが20代の新卒の子だったらまだいい。ある程度は素直に「はい」と聞いてくれるだろう。だが相手は私と同じ年齢で、それなりに人生経験を積んできた女性なのだ。
私が説明していると、逐一途中で意見が入る。
「でもそれってこうすればいいんじゃないですか?」
「私の前の職場ではそういうやり方ではなかったですよ」
「え?この会社って遅れてるんですね」
これらをずっとイライラした口調で言っていた彼女だったが、遂に我慢出来なくなった様で、
「言ってる意味が分からないんですけど?私は素人なんですよ?もっと丁寧に説明できませんか⁉」と、責めるような口調で言った。
……それなら自分で勝手にしろっ!と、爆発したくなるような心境半分、強い口調で言われてしまい、萎縮してしまった自分が半分。こういう女性に対してどう接していいのか分からない。
私の説明下手なのもあるだろうが、仮にも仕事を教えてもらってる立場であれば、もう少し謙虚な物言いが出来ないのだろうか?
それも、その日の休憩時間にパート達と一緒にテーブルを囲んでいると、すっかりパート主婦と打ち解けているその派遣女性は、
「もう最悪ですよ、全く説明なしでいきなりやれ!って言われても無理でしょ⁉」と自分の愚痴を吐き出していた。
パート達も、「うんうん、そうよね~分かる~」と話を合わせて、「大変でしょう?でも頑張ってね」と慰めている。内心はそのパート達もどう思っているのかは分からないが、興奮している彼女を腫物に触るように扱っていた。誰も面倒な事に巻き込まれたくはない。
どうしたらこんな風に「他人に気を遣わせる人」になれるのだろう。こんな人は嫌いだと思いながらも、自分自身がこんな人になれればどんなに楽に生きられるだろうかと思う。今では皆、彼女の機嫌を伺うような空気になってしまっている。まだ勤め始めて数回だというのに。
新しい派遣の人が来たという事で居場所がなくなると思ったが、それどころではなかった。毎回彼女から攻撃を受けそうで怖い。
そんな落ち込んだ気分でいると、そっと女性社員が話しかけにきてくれた。
「ころりさん、もっと強く言わなきゃ舐められるわよ」
気遣ってくれたその女性社員には感謝したが、私はそんな戦いの為に外に出ているんじゃない。
静かに黙々と仕事したいだけなのに。
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