普通より下





「次は何を植えるの?」

突然背後から声が聞こえたので振り返ると、近所の主婦Aさんが立っていた。同じ班ではないが、少し歩いた先の家に住んでいる。

私の母親ぐらいの年齢で、普段はあまり会話する事はないが、私が年に何度か庭の手入れをしていると時々話しかけてくれる。彼女も花が好きらしく、彼女の家の前を通るとまるで花屋のような美しい花壇があったり、リースが飾られていた。

今まで何度か会話したが、いつも話題は花の事ばかり。私も近所の噂話を聞かされるよりその方がずっと気楽だったので、この日も声の主がこの主婦だと分かった時にはホッとした。

「植える花はまだ決めていないんです。でもさすがに冬用の花にリニューアルしないと……と思って土をほぐしているんです。もう秋も終わりですっかり出遅れてしまいましたけどね」と私は笑った。

そう、昨日の記事でも書いたとおり掃除や手入れが手抜きになり、花壇の手入れも昔と比べるとかなり頻度が落ちた。本来ならもうとっくに冬用の花を植えているべきなのに、まだもたもたと夏に植えて枯れてしまった花を撤去している状態だ。

「今からでも十分よ。ビオラとか丁度出回ってるから安くて簡単に植えられるしね」とAさんは言った。

それからしばらくは花談義が続いたが、遠くから子供の声が聞こえ、Aさんが振り返った。

「おばあちゃーん!何やってるのーっ?」

どうやら彼女の孫らしい。道の向こうから手を振ってこちらに合図していた。小学校高学年といった年齢だろうか。

「おばあちゃんね、今お話ししてるの!危ないからお家に戻ってて!」

Aさんは孫に家に戻るように指示していたので、私はおもわず「一緒に行かなくて大丈夫ですか?」と聞いた。

「いいのいいの、もう何でも一人で出来るんだから」と気にしていない様子のAさん。私的にはそろそろ話を切り上げたかったので遠回しに言ったつもりだったのだが、Aさんはまだまだ話を続けたいらしい。動く気配はない。

「お孫さん、遊びに来てるんですね」と私が言うと、

「ええ、今娘とちょっと遊びに帰って来ててね――」と言いかけたが、思い切ったように「実は何だかちょっと婿と喧嘩したみたいでね」と、こちらが聞いてもいない事をペラペラと話し始めた。誰かに聞いて欲しかったのだろうか?


彼女の話によると、1週間ぐらい前に娘が夫と喧嘩をして突然子供を連れて帰ってきたらしい。元に戻る様子もなく、親としては心配で毎日落ち着かないと言う。

「そのうち落ち着いたら戻られるんじゃないですか?長く一緒に暮らしていると色々ありますしね」

私は精一杯のフォローをしたが、彼女は話しているうちにヒートアップしてきたのか、涙を浮かべてこう言った。

「娘にもね、しっかり言い聞かせてるの。離婚だけは絶対に、絶対にしないでね!って。あと1週間以内にはちゃんと家に戻るように説得してるのよ!」

必死に気持ちを訴える彼女に私は

「まぁ、子供の為にも…っていうのがありますよね」と無難な答えを返した。

だが次にAさんから返ってきた言葉に驚いた。

「それよりも近所の目があるじゃない!私、娘が実家に帰って来てるってだけで恥ずかしくて。周囲にどう思われてるかと思うと、早く娘に出て行って欲しくてたまらないの。うちの娘、親の気持ちを全く考えない子なのよ!」と怒っていた。

近所には娘が遊びに来ていると説明してある手前、長く居られると困るという事らしい。

そんなに近所の目が気になるものか?と一瞬思ったが、日頃近所の目ばかり気にしているのは自分も同じだと思い出した。

「別に多くは望んでないのよ。普通に仲良く暮らして欲しいのよ。普通に妻やって普通に母親やってくれればいいの。人より上になって欲しいなんてこれっぽっちも思ってないのよ。他の人と同じようにしてくれればいいの」

このAさんにとっては、娘が出戻ってくるという事は「普通より下」な事なのだろう。

もしかして子供がおらず母になっていない私も、彼女から見たら「普通より下」と判定されてしまうのだろうか。

Aさんは言っていた。

「万が一離婚したら、絶対家に戻ってこないでって娘に言ってあるの。どこかにアパートでも借りて欲しいって」

どこまでも自分中心のその考え方に呆れて返す言葉もなかった。
それとも親の本心とは皆こういうものなのだろうか?

今までは呑気に花の話題しかした事がなかった為、どんな人かよく分からずにいたがこの日、彼女の中の黒い部分を見たような気がした。

今後また花の話題になったとしても、私の心に落とされた彼女の黒い印象は消えそうもない。





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Posted byころり
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