太って良かったね
「あら、最近太ったんじゃない?」
犬の散歩途中で知った顔の女性に声をかけられた。私の母親ぐらいの年齢で、あちらも犬を連れている為に時々会話をする。
私は最初、「太った」と言われているのが犬の事だと思った。
なので、この時も「そうなんです、でもなかなかエサを減らせなくて……」と言いかけると、その女性は「違うわよ、あなたの事よ」と言った。
普通ならハッキリと言い辛い事を言われてしまったなぁと思いながらも、「あ、そうなんですよ」と私は苦笑した。
だが意外にも彼女の目は真剣で「良かったわー、一時は心配してたんだから。今の方がずっと健康的よ。もう体調は良くなったのね」と言った。
そして「精神的にも落ち着いてきた証拠よ、良かったわね」と続けた。
私は何と返していいか分からず、「ええ、まあ」と曖昧に笑った。
彼女には私と同年代の娘がいて、もう何年も引きこもっているらしい。はっきりとそういう言葉を聞いた訳ではないが、娘の様子を聞いていると私と同じだな、と以前から感じていた。
だが私は自分が「鬱」だとか「引きこもり」だとかの言葉を出した事がなく、普通に元気に暮らしていますというフリをしていたつもり。
だがこの日の彼女からの言葉を聞き、実際は私が鬱病だとバレバレだったのだな、と悟った。
言葉にしなくても、どこかそういう雰囲気を出していたのだろう。それに家族や本人が鬱病であれば、同じ人を見ただけで何か分かるものがある様な気がする。
その女性は続けて言った。
「うちの娘ね、今入院しているの。多分しばらく出てこられないと思うわ」
どんな病気だとか、どんな病院に入院しているかとか、そんな事は聞かないし相手も言わない。
もうお互い分かっている。
「そうですか、少しでも良くなるといいですね」
私はありきたりな言葉しか返せなかった。自分だっていつどうなるか分からない。また逆戻りする事だって十分考えられるのだから。
「無理せず元気にね」と言ってその女性は去っていった。初老のその人が寂しそうに見えた。
その後ろ姿を見ながら、自分の母が重なった。私も母にあんな苦労をかけているのだろうか。きっとそうだろうと思う。親孝行どころか、いくつになっても心配をかける娘のままだ。
トボトボと帰宅しながら、せめてこれ以上親に心配をかけない人間でいたいと心から思った。
言葉にしなくても、どこかそういう雰囲気を出していたのだろう。それに家族や本人が鬱病であれば、同じ人を見ただけで何か分かるものがある様な気がする。
その女性は続けて言った。
「うちの娘ね、今入院しているの。多分しばらく出てこられないと思うわ」
どんな病気だとか、どんな病院に入院しているかとか、そんな事は聞かないし相手も言わない。
もうお互い分かっている。
「そうですか、少しでも良くなるといいですね」
私はありきたりな言葉しか返せなかった。自分だっていつどうなるか分からない。また逆戻りする事だって十分考えられるのだから。
「無理せず元気にね」と言ってその女性は去っていった。初老のその人が寂しそうに見えた。
その後ろ姿を見ながら、自分の母が重なった。私も母にあんな苦労をかけているのだろうか。きっとそうだろうと思う。親孝行どころか、いくつになっても心配をかける娘のままだ。
トボトボと帰宅しながら、せめてこれ以上親に心配をかけない人間でいたいと心から思った。
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