友達の基準
派遣先に行く日、いつも休憩時間はパート主婦達と一緒になる。
昔から「休憩時間」というものが苦手だ。嫌でも誰かと話さねばならず、もしくは仲間に入れず孤独を感じるか……私にとっては苦痛の時間でしかない。
今の派遣先でもやはり孤独感はあり、時々話を振られた時に返答する程度。それ以外はほとんどうっすらと笑みを浮かべながら皆の話を聞いている。本当は何も面白くないのだが、無表情で座っていると鬱陶しいだろうと思い、ただ適当に合わせて皆が笑えば一緒に笑っておく。――本当に疲れる時間。
この日もいつもの様に、大声かつ早口で会話する主婦達の話を聞いていた。
「私って友達だけは多いからさぁ」と一人の主婦が言った。
このパート主婦は明るくおしゃべり好き。喜怒哀楽が激しく、暗い人が嫌いだとハッキリと言う。私と真逆のタイプだ。
彼女の話を聞いていると本当に友人が多いらしく、明日はAさんとランチ、次の休日にはBさんとコンサート、来月には別の友人と旅行、それ以外にも頻繁に夜は飲み会に行っているし、家の中で居るのが嫌いだと言う。とにかく少しでも空いた時間があると誰かを誘って遊びに行くらしい。
私は今まで彼女の話を聞きながら、「きっと昔からの友人やママ友、これまでの職場での付き合いが続き、そんな風に友人が増えていったのだろう」と思っていた。
だがこの日、それは違うと知った。
彼女は最近華道の教室に通い始めたらしい。よくあるカルチャーセンターらしいが、行ってみるともう何年も続いている女性達ばかりが来ているらしく、新人として入ったのは自分だけだったとの事。
その時点で私なら居辛くて萎縮してしまいそうだと思ったが、彼女は隣に座る女性に積極的に話しかけ、その初日の終了時間にはメルアド交換し、次回行く時には教室の後で一緒にカラオケに行く約束をしたと言う。
また別の日、彼女は調子を崩して病院に行ったらしい。その待ち時間の間に隣に座っていた人に話しかけ、これもまた意気投合してメルアド交換し、今ではもうすっかり親友だと言う。
親友だと言うからかなり月日が経っているのかと思えば、その病院で知り合ってからまだ1か月も経ってないらしい。
他にたくさんいる友人というのも、よくよく聞いていると皆ネット上で知り合っただけで、初対面から相手の家に宿泊させてもらうというのだから驚く。
まだまだ同じような話が続き、私は聞いていて、彼女の「友達の基準」はなんて軽いんだろうと思った。
それは悪い意味ではなく、ただ私の価値観との違いに感心させられた。
私にとっての「友達」とは、ゆっくりと打ち解け合い、相手の性格や心をお互いに理解し合い、いつの間にか仲良くなっている、そんな関係だと思っている。
それでも時々、本当に友人と言えるのだろか?と不安に思ってしまう程、私にとっての「友達」とは不安定なものだ。
だが、彼女の言う「友達」はなんて簡単なんだろう。
今日知り合ったら明日から友達。そんな感じ。
だから、驚いた事に時々彼女は私にさえも「明日暇だったら二人でショッピングに行かない?」と声をかけてくる事がある。
恐ろしくて丁重にお断りする。
有難く思わないといけないのだろうが、普段は全く仲良くはないし、むしろ無視されたりキツイ言葉をぶつけられる事も多い。それなのになぜ?理解に苦しむが、彼女にとっては遊びに行く相手が出来れば誰でもいいのだろうか。
私も彼女のような基準で「友達」を作れば、あっという間に「私って友達多いの」と言える人になるのだろう。
だがたとえそんな風に作った「友達」が多く出来たとしても、今の私の孤独感は解消されないような気がする。むしろ本心を出せない自分自身に疲れるだけだ。
友達が多いと嬉しそうに言う彼女。私は彼女が苦手だ。
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