子なし主婦のぼっち体験
――前回の続き。
一日体験の日、受付に行くと、一人ポツンと可愛らしい女子が座っていた。
体験を予約している事を伝えると「お待ちしていました。こちらにどうぞ」と言いながら、小さな別室に案内され、担当者を呼ぶのでそこで待つように言われた。
その部屋はスポーツジムには似つかわしくないお洒落な可愛い部屋で、まるでカフェのようなテーブルとイスがいくつか置かれていた。その椅子の一つに腰をかけ、しばらく待った。
2分程して、先程の受付女性が後ろに30代ぐらいの女性二人を連れて部屋に入ってきた。そして、その女性達を私と同じテーブルに誘導し、私の時と同じように「しばらくここでお待ち下さい」と言い去ってしまった。
…………これは?
私は体験を申込みした時点で、自分一人で体験できるものだと思い込んでいたが、もしかしてこの人達も一緒にという事なんだろうか?
二人とも私とは正反対のタイプであった。
綺麗なロングの巻き髪、アイラインもバッチリな化粧、高級そうなピアスや指輪、そして一人は今からランチにでも行きそうな真っ白でお洒落なワンピース、もう一人も綺麗な足を出したタイトなミニスカートを掃き、センスの良いストールを羽織っていた。そして二人ともとても良い香りがした。
対する私は半年以上美容院には行っておらず、黒いゴムでいわゆるおばさん結び。その上着ているの古びたジャージ。
極端過ぎる私のダサさに、恥ずかし過ぎて向かい合って座っているのが苦痛だった。同じテーブルに向かい合っているものの、相手も話しかけてこないし、私も何も言わず俯いたまま。二人はママ友らしく、楽しそうに会話していた。
しかしそれも2分程で、すぐに担当者らしきトレーナーが部屋に入ってきた。
「こんにちはーっ!よろしくお願いします!本日は体験にお申込み頂きありがとうございます!是非楽しんで行って下さいね!!」
声、デカ。
私の苦手なハイテンションなトレーナーだ。確かにスポーツジムで地味な人なんていないのかもしれない。テンションを上げて客を盛り上げるのが仕事だろうから。
そして、そのトレーナーも席に付き、
「本日は、3名様のお申込みがありましたので、この3名様で一緒に体験して頂く事になります。折角ですのでこの機会にお互い自己紹介して頂きましょうか」と言った。
あぁ……本当に来なきゃ良かった。こんな事になるなんて。
最初に相手側の二人から自己紹介をしてくれた。といっても、名前を言う程度だったのだが、トレーナーが間で質問を入れる。
「運動は初めて?」「お子さんがいらっしゃるんですね」「ではお二人はママ友で?」そんな感じで場を盛り上げようとトレーナーはどんどんと話題を広げた。
次に私の番。
私は名前を言い、最近体調が悪いのとダイエットもかねて今日は来ましたと言った。
トレーナーは私にも同じように「お子さんは?」と聞いた。
「いません」
「あ、そうなんですね~、それなら時間も自由がききますし、いつでも通えますね」と上手く繋いだ。
まさかスポーツクラブに来て、子供の有無まで確認されるとは思わなかった。ため息が出る。地味そうなジムで一人で黙々と運動したかっただけなのに。
それからは簡単にこのクラブの設備の説明があり、実際にその各部屋を回って様子を見学させてくれたり、利用したい場合の手順などの説明があった。
その間、ずっとトレーナーの後を3人で付いていくという感じだった為、ママ友の二人はキャッキャと楽しそうに会話しているが、私は居辛くて仕方がない。私が無口なのでトレーナーも話しかけ辛かったのか、そのママ友二人の方に話しかける。私はこんな所に来てまでボッチ感を味わう事となった。
その見学の途中、スカッシュの部屋に来た。
「これこれ、やりたいよね」とママ友二人が騒いだ。
トレーナーも「今なら予約が入っていませんし、早速この後使ってもらってもいいですよ」と言った。
そして「ころりさんもお二人と仲良くなるキッカケに、一緒にスカッシュどうですか?」と言われた。
そんな二人の邪魔をするような事を出来る訳がない。
それに私は友達を作りにきた訳ではないし、この展開でこの二人と仲良くなりたいともなれるとも思わなかった。
「あの、出来れば私は筋力作りのトレーニングをしたいのですが…」と私は言った。
「なるほど!そうですよね!ではころりさんには今からそちらのご説明を致しますね。お二人は今からスカッシュしてみます?」とトレーナーはママ友二人に確認し、二人はそのまま更衣室に着替えに行く事になった。
やれやれ、これであの二人と離れる事が出来た。
その後は、簡単にマシンの扱い方を教えてくれたが、「また分からない事があれば聞いて下さいね」と言ったきり、トレーナーがしばらく離れてくれたので、やっと私は一人になり、ウォーキングマシンやその他のトレーニングを試す事が出来た。
が、本心は帰りたくて仕方がなく、一応体験に申し込んでしまった為に30分程なんとか時間を潰したという感じ。
最初のママ友とセットでの説明あたりから心が折れてしまい、運動なんてどうでも良くなってしまっていた。
最後に、またトレーナーとママ友二人とで最初の部屋に戻った。
「今日は体験どうでした?」
このまま加入するかどうかを確認したいらしい。
ママ友二人は加入する気満々で、もう申込書に記入していた。
私は「少し考えてまた連絡させて頂いていいですか?」と答え、その申込書を持ち帰った。
疲れた。気疲れした。やはり外に出るとどうしても人と関わってしまう。
筋力を鍛える前に心を鍛える必要があると痛感した。
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