切ない会話
先日の法事の時、帰り際に3歳年下の従妹と話す機会があった。
今回の法事で集まった従姉妹達は、皆母になり子供を連れている人ばかりだと思い込んでいたが、一人忘れていた。
この3歳年下の従妹は独身であり、実家から出て一人暮らしをしていると聞いていた。私は彼女と20年以上はまともに会っていなかった気がする。
彼女はチエちゃんといい、私から見ても大人しく物静かで、存在感がない人だった。だからという訳ではないが、子供がいる従姉妹達ばかりに目がいってしまい、帰り際にチエちゃんに話しかけられて初めて、そうだ、彼女も居たんだった――と気付いた。
話しかけられたといっても、大人しい彼女らしく世間話をしにきたのではない。叔母に頼まれて私にお土産を渡しに来ただけであった。
「ころりさん、これ……」と渡されたのでお礼を言ったが、その後は何も会話がなく気まずい空気が流れた。
お互いが話下手だとこれだから困る。
「チエちゃん、連休はカレンダー通り?」
とにかく何か話題を――と思い、適当に質問してみたが、言った後に気付く。誰もが働いているとは限らない。私が逆に同じ質問をされたら、「ほぼ毎日連休です」と言いたくはないだろう。もっと無難な天気の話にでもすればよかったか……
一瞬にしてそんな事を考えていたが、チエちゃんはあっさりと、
「ううん、サービス業だから祝日とか関係ないの。今日は有休で」と答えた。
良かった、働いているんだ。と質問した事に安堵した反面、やっぱりまともに働いていないのは私だけか……とどこかガッカリする自分もいた。
チエちゃんも質問しないと悪いと思ったのか「ころりさん、仕事は?」と聞かれた。こんな話題を自分から振るなんて墓穴を掘ってしまった。
「時々働いたり、家でダラダラしたり。ほとんど引きこもりよ」と私は言った。彼女が私と似たタイプに見えたからか、引きこもりという言葉がスラリと出た。
チエちゃんは特に気にした風でもなく「そう」と言い、「座る?」と聞かれたので私達はそのまま縁側に腰を掛けた。真正面に向き合いながら話すより、横に並んで話す方がずっと楽に話せそうだ。
「チエちゃん、一人暮らしでしょ?偉いよね。私なんて一人じゃ何も出来なくて」と私は言った。
するとチエちゃんは「ううん、実は今同棲してるの」と言った。
聞くと、同じ職場の同僚と同棲しているらしい。それが、彼には別居中の妻子がいて、まだ色々問題があって離婚出来ていないという。
無口だと思っていたチエちゃんが意外にもそんなプライベートな事まで私に話してくれるとは思わなかった。いや、もしかしたらまた何年も会う事のない私だからこそ話せるのかもしれない。
「私の親には言わないでね、秘密」とチエちゃんは笑った。
妻子ありの人との交際も同棲も、私が口出しする事ではないし本人達にしか分からない事だから良い事か悪い事かは分からない。
ただ、優しく大人しそうで、何も問題なんてなさそうに見えたチエちゃんにもこんな悩みがあったんだと少し驚いた。皆幸せそうに見えても実際は聞いてみないと分からない。
そして、チエちゃんは少し遠慮がちに言った。
「昨日のアレ、あの叔父さんが言った事――」
「あー、うんうん、あれね、いかにもあのオヤジって感じだよね」と、私は強がり笑った。
(関連記事→犬なんか)
チエちゃんは「うんホント」と言い、
「私なんてこの歳で結婚もしていないでしょう?私もあの叔父さんに酷い事言われたよ。でも多分これから先も結婚出来ないから、ずっと言われ続けるのかもね」と苦笑していた。
私は急に切なくなり、
「結婚なんて先の事は分からないよ、それに今二人で居て幸せならそれでいいよ」とチエちゃんに言った。言いながらも、まるで自分に言い聞かせている様だと感じた。
私は叔父に子供の事を言われ、自分だけが辛くて居場所がないと思っていた。でも、私の気付かない所でチエちゃんも私と同じように一人傷付いていたんだと思うと悲しさが増した。
同類が居てホッとはしなかった。悲しいという気持ちが重なり倍増するだけだ。
チエちゃんとなら時々会って話してみたい……そんな気持ちになったが、自分から連絡先を聞く事は出来なかったし、聞かれなかった。それが良かったのかも。これっきりの会話だから気楽に話せたのかもしれない。
別れ際、チエちゃんは言った。
「ご夫婦仲良くね」
私を気遣っての言葉だと思うが、チエちゃんの気持ちを考えるとその言葉も切なかった。
するとチエちゃんは「ううん、実は今同棲してるの」と言った。
聞くと、同じ職場の同僚と同棲しているらしい。それが、彼には別居中の妻子がいて、まだ色々問題があって離婚出来ていないという。
無口だと思っていたチエちゃんが意外にもそんなプライベートな事まで私に話してくれるとは思わなかった。いや、もしかしたらまた何年も会う事のない私だからこそ話せるのかもしれない。
「私の親には言わないでね、秘密」とチエちゃんは笑った。
妻子ありの人との交際も同棲も、私が口出しする事ではないし本人達にしか分からない事だから良い事か悪い事かは分からない。
ただ、優しく大人しそうで、何も問題なんてなさそうに見えたチエちゃんにもこんな悩みがあったんだと少し驚いた。皆幸せそうに見えても実際は聞いてみないと分からない。
そして、チエちゃんは少し遠慮がちに言った。
「昨日のアレ、あの叔父さんが言った事――」
「あー、うんうん、あれね、いかにもあのオヤジって感じだよね」と、私は強がり笑った。
(関連記事→犬なんか)
チエちゃんは「うんホント」と言い、
「私なんてこの歳で結婚もしていないでしょう?私もあの叔父さんに酷い事言われたよ。でも多分これから先も結婚出来ないから、ずっと言われ続けるのかもね」と苦笑していた。
私は急に切なくなり、
「結婚なんて先の事は分からないよ、それに今二人で居て幸せならそれでいいよ」とチエちゃんに言った。言いながらも、まるで自分に言い聞かせている様だと感じた。
私は叔父に子供の事を言われ、自分だけが辛くて居場所がないと思っていた。でも、私の気付かない所でチエちゃんも私と同じように一人傷付いていたんだと思うと悲しさが増した。
同類が居てホッとはしなかった。悲しいという気持ちが重なり倍増するだけだ。
チエちゃんとなら時々会って話してみたい……そんな気持ちになったが、自分から連絡先を聞く事は出来なかったし、聞かれなかった。それが良かったのかも。これっきりの会話だから気楽に話せたのかもしれない。
別れ際、チエちゃんは言った。
「ご夫婦仲良くね」
私を気遣っての言葉だと思うが、チエちゃんの気持ちを考えるとその言葉も切なかった。
よく読まれている記事