いつかこの場所から抜け出したい

8月最終日。
今日は地域の夏祭りだった。
最近は天気が不安定なのでもしかして中止にならないかな…と密かに期待していたが、残念ながら通常通り行われた。
開催場所まで歩く途中、道で会った人に、「雨にならなくて良かったですね」と声をかけられ、「そうですね」と合わせて笑顔で答えたが、私の心は疲れ切っていた。
こんな行事がある度に思う。
他の地域に引っ越したい。
子供中心の行事から逃れたい。
しかし強制参加の行事を欠席する訳にもいかず、結局今年も参加するしかなかった。
相変わらず居心地が悪いのは同じ。どこに立っていればよいのかも分からず手持ち無沙汰。
役員になるのも嫌だが、かといって役員でもないのに参加すると、こんな風にやる事もないのに皆と一緒にただ立っている事になり、その時間は苦痛でしかない。
男性達はテントを立てたり提灯を準備したり体を動かす作業に専念し忙しそう。
一方女性達は仲の良い顔見知り同士がそれぞれ固まりになり、準備している人はごく一部、それ以外の人はただ井戸端会議をしているだけだ。
私は一応、準備している人に声をかけてみた。
「何かお手伝いしましょうか?」
だが答えは予想通り、「ありがとう、でも間に合ってるので大丈夫です」
私は何もする事が無く、話す相手もおらず、ただ地蔵のようにその場にジッとしていた。
すると向こうの方から見知った同じ班の主婦が二人で歩いてきた。だが子供は一緒ではない。
考えてみれば数年前まではこういう行事には皆必ず母と子がセットで参加していたが、最近は母親だけで子供がいない親も多い。皆子供が成長し進学で家を出たり、子供がこういう行事に興味を無くしていくのだろう。
「ころりさん、久しぶりね」とその二人に声をかけられた。
目と鼻の先に住んでいるのに「久しぶり」なんて、いかに自分が近所の人と交流していないかを実感する。
彼女達と一言二言会話したが、その後主婦の一人が自分の息子の話をし始め、もう一人の主婦もそれに食いついた。
「え?そんなに高いの?」
どうやらお互い子供が大学に進学しているらしく、子供の家賃が高過ぎるとか、バイトは何をしているの?という話題に夢中になっていた。
私も目の前にいるのに黙っていては悪いかと思い、最初は「へぇ、そうなんだ」と言ってみたり、「うん、うん」と頷いてみたりした。
だが二人の目線は全くこちらを見ていない。
私など目に入っていない。
そのうち無理に反応するのも逆に鬱陶しいかと思い、私はぼんやりと一点を見つめて貝になった。
気まずいが、この場を立ち去るタイミングが掴めない。
やはりこうなる。
嫌という程分かっているが、子供が成長してこの地域からいなくなっても私と彼女達の関係性は変わらないと改めて思った。目の前に子がいなくても彼女達の話題はいつも子供の事ばかり。それが近所の女性と会話する上で無難な話題でもあるのだろう。
いつか、いつかこの場所から抜け出して、こんな事を感じずに住む生活がしてみたい。
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