トイレ騒動。大騒ぎしていても言い出せない人達

心療内科に行ってきた。
私が診察を終え診察室から出て来ると、何やら待合室がザワついている様子だった。
会話をしていたのは受付事務員2人と一人の男性患者。
「さっきから15分以上経つのに出てこないんです」
どうやらその男性はトイレに行きたいらしいが、先にトイレに入った女性患者がなかなか出てこないらしい。
この病院のトイレは個室が1つだけ。
その男性は先の利用者があまりにも遅いので心配になり、事務員に相談していた。
すると事務員がトイレのドアをトントンと叩き、「大丈夫ですか?」と何度も声をかけた。
しかし中からの返事は無い。
そこで事務員がドアノブを触ったところ鍵はかかっていないらしく、「ドアを開けますよ」と言い、トイレのドアを開けた。
するとそこには誰もいない。
空だった。
驚き慌てる男性。
「え⁉さっきトイレに入るのを見たんです!それからずっと出るのを待ってたんですよ」と必死に弁解していた。
「でも誰もいなかったみたいですね」と呆れ顔の事務員。
人騒がせな…と顔に書いてある。
すると私の背後から小さな声が聞こえた。
「…あの…その女性…10分程前に…トイレから出て…帰られました…」
消え入るような声だったので、何度か事務員に聞き返されていた。
すると狼狽えたその女性は近くにいた他の女性患者に、「ね?そうですよね?」と助けを求めた。
そして話を振られた他の女性患者も、俯いたまま小さく頷いた。
男性患者と事務員から、「それなら早く言ってよ!」という空気を感じた。確かに普通はそう思うだろう。
トイレのドアを叩き、「誰かいますか?大丈夫ですか?」とあれ程騒いでいたのに、もっと早く言う機会はあったはず。
待合室には無言で座っている女性患者が私以外に3人いたが、誰もが何も言わずその状況を見ていた。
私はそんな時に声を出せない人達の気持ちが分かる。
我関せずでいたいのではない。
ただ声を出す勇気がなかっただけなのだろう。
たったそれしきの事で?と思うだろうが、そういう人達が集まるのが心療内科の待合室なのかもしれない。
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