おせち料理を渡して絶賛された

朝からスマホに着信があり、その音を聞いた途端、息苦しくなった。
画面を見るとやはり実家の母。
そろそろ何か言って来る頃だろうと思っていた。
今回は母にしてはかなり我慢していた方だが、限界に達したのだろう。
無視する勇気もなく、憂鬱気分MAXで電話に出た。
すると電話に出るなり不機嫌な声が聞こえた。
「どうして連絡をしてこないの?いつもこっちから電話をかけないといけないじゃない」と初っ端からお説教モード。
私はそれには返答せず、「何か用?」とぶっきら棒に言った。
すると母は急に、今頃おせち料理の話をし始めた。
年末、母はいつも通っている美容院に自分の手作りのおせち料理を差し入れしたらしい。
それを聞いただけでもドン引き。
そもそもただの客が美容院に差し入れをするというだけでも、私なら無い話なのだが、ちょっとした菓子などならまだ許せる。
だが「手作り」であり「おせち料理」なのだ。有り得ないでしょ。
特に母がその美容院のオーナーと直接親しいという訳でもなく、単なる客なのだ。
相手がどれ程困っただろうと思う。
しかし母が言った。
昨日また白髪染めに美容院に行ってきたらしい。
すると担当してくれたスタッフに、手作りおせち料理を絶賛されたと言う。
母が渡した料理を、「スタッフ皆で分けて頂きました」と。「凄く美味しかったです!高級おせち料理で売りに出せますよ」と。
「そんなの社交辞令に決まってるじゃない。不味かったと言えないわよ」と私は言った。
ぶっちゃけ、本当に食べたのかどうかも怪しい。
私のような神経質な人間は申し訳ないが他人の手作りは食べられなかったりする。
だが母にそれは通じず、「そんな事はない。あの言い方は本当だった。作り方まで聞かれたわ」と、鼻息荒く声を大きくした。
…だからそれが社交辞令なんだって。
そう思うが、それで母が自己満足に浸れるのなら勝手にすればいい。
だがそこで終わらないのが母だった。
――続きます。
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