子宝サプリ
久々に派遣先に行くと、いつものお節介なおしゃべりパート主婦が寄ってきた。
「ねぇねぇ、ころりさんお久しぶり!」
何か分からないが嬉しそうだ。手を見ると小さな紙袋を持っていた。
「おはようございます」と静かに挨拶をすると、パート主婦は私の肩に腕を回し「ちょっとちょっと」と言いながら給湯室まで連れて行かれた。
何か嫌な予感はしたが、この嬉しそうな主婦の顔からすると、文句を言われる訳ではないだろう。だが胸がドキドキしてくる。
「あのね。ウフフッ」とパート主婦はモジモジし始めた。なぜか興奮しているのか顔が赤い。
「ちょっとね、変に受け取らないでね」と言いながら、紙袋を私に渡す。
「え?何なんですか?これ」と袋を開けずに聞くと、「いいからいいから、とにかく受け取って!」と言った。
「ちょっと良く分からないんですけど――あの、開けてみてもいいですか?」と聞いた。
「うん、いいよ」とパート主婦はニマニマと笑っている。
袋を開けてみると、何やら薬かサプリのようなものが入っていて、栄養成分などが記載された袋に包装されていた。
「サプリ?ですか?――え?どうして?」と良く分からず立ち尽くしていると、パート主婦は堪り兼ねたように「コ・ダ・カ・ラ!」と言い、私の背中をバン!と叩いた。
一瞬にして理解した。
そうか、そういう事か。私も鈍感だった。サプリを見てすぐに気付くべきなのに。
いつも「子作りならまだ間に合う」と私に発破をかけてくる主婦だ。頑張る気のない私を見てイライラしていたのだろう。でもこんな物を受け取ってしまっては、「どう?効きそう?」なんてまた質問攻めに合い、ずっと一線が引けなくなってしまう。何とかして断らなければ。
「あの、お気持ちは有難いのですが、本当に私はもう子供を望んでいないのです。だからコレはお返しします。すみません」
途中で言葉を挟まれないように一気に言った。
だがパート主婦は笑顔のまま。そして私を説得し始めた。
「あのね、諦めてしまう気持ちは分かるけど、ここでひと踏ん張り頑張らないと、絶対後悔するわよ」
「このサプリね、不妊の人達の間では効果があるって有名らしいの。だから一度試すだけでも、ね?」
全く私の気持ちが通じていない。
赤の他人に子供を諦める事を許して貰えないなんて、数か月前までは想像もしていなかった。
こんなに人の私生活や心にズカズカと入ってくる人がいるという事を忘れていた。
その後も、「でも無理です」「受け取って」を何度か繰り返したが、結局押しに負けて受け取ってしまった。弱い自分。
その日は仕事どころではなく、その事で頭がいっぱい。
また面倒な事になってしまったと、いつも以上に暗い顔になった。
そうか、そういう事か。私も鈍感だった。サプリを見てすぐに気付くべきなのに。
いつも「子作りならまだ間に合う」と私に発破をかけてくる主婦だ。頑張る気のない私を見てイライラしていたのだろう。でもこんな物を受け取ってしまっては、「どう?効きそう?」なんてまた質問攻めに合い、ずっと一線が引けなくなってしまう。何とかして断らなければ。
「あの、お気持ちは有難いのですが、本当に私はもう子供を望んでいないのです。だからコレはお返しします。すみません」
途中で言葉を挟まれないように一気に言った。
だがパート主婦は笑顔のまま。そして私を説得し始めた。
「あのね、諦めてしまう気持ちは分かるけど、ここでひと踏ん張り頑張らないと、絶対後悔するわよ」
「このサプリね、不妊の人達の間では効果があるって有名らしいの。だから一度試すだけでも、ね?」
全く私の気持ちが通じていない。
赤の他人に子供を諦める事を許して貰えないなんて、数か月前までは想像もしていなかった。
こんなに人の私生活や心にズカズカと入ってくる人がいるという事を忘れていた。
その後も、「でも無理です」「受け取って」を何度か繰り返したが、結局押しに負けて受け取ってしまった。弱い自分。
その日は仕事どころではなく、その事で頭がいっぱい。
また面倒な事になってしまったと、いつも以上に暗い顔になった。
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