子供に頼らず見栄を張らず一人で生きていく

―――前回の続き。
タキさんが退職するらしい。
それからも時々タキさんは私の手作りパンを食べてくれていたらしい。
しかしそのうち私の体調が悪くなり、夫の朝ごはんを用意する事が出来なくなった。
すると夫は毎朝コンビニでおにぎりやパンを買うようになった。
それも、自分が食べる事もあればタキさんにあげる事もあり、そのうちほぼ毎日、夫はタキさん用の分を買って行くようになっていた。
遠慮する?
逆に迷惑?
普通ならそうかもしれないが、タキさんは違う。
凄く喜んでくれるらしい。
タキさんは50代の頃に離婚し、その後は一人暮らし。
子供は二人いるが、結婚し遠方に住んでいる。
パートの収入は手取り10万円程度で、それを知る夫はよく言っていた。
「どうやって生活してるんだろう」
持ち家ならともかく、タキさんは賃貸暮らしだ。
貯蓄もほとんど無いらしく、「今月の携帯代が払えない」とか、「車検代の支払いを半年以上待ってもらっている」とか聞く。
そんな話を聞いているとつい夫も力になりたくなり、家に不用品があればすぐに、「タキさん要らないかな?」と言うようになった。
「でも気を使わせるだけかも。断り辛いだろうし、まず先に確認してからにしてよ」
私がそう言うので、夫は事前にタキさんに欲しいかどうか聞いてみたが、どんな物でもタキさんは「貰えるなら欲しい」と言う。
なので頂き物の野菜や果物、タオルや洗剤、外食のクーポン券など、今まで何度もタキさんに持って行った。
タキさんの子供達は母親がギリギリの生活をしている事を知っており、「一緒に住もう」と言ってくれるらしい。
だがタキさんは仕事を退職した今後も、子供達と同居するつもりは無いと言う。
子供とは仲が良いが、細々とでも自分一人の方がずっと気楽でいい。
そう言うタキさんは、体裁を気にせず見栄を張らず、周囲の頼れる人には甘え、貰える物は貰い、素直に喜びながら生きている。
そんな逞しさが少し羨ましい。
よく読まれている記事