バッグを開けた瞬間、時間が戻ったような気がした

子犬に合うリードはあっただろうか。
まだ先だが、子犬が散歩に行く時の為に、愛犬が使っていたサイズの小さい首輪やリードが残っていないか探してみた。
愛犬の洋服やリードは、一つのバッグにまとめて入れてある。
ずっとそのバッグを開ける勇気が無かったが、私は思い切ってそのバッグのファスナーを開けた。
そしてその中に入っている愛犬の洋服やハーネスをバサッとまとめて外に出した瞬間、フワッと匂いがした。
愛犬の匂い。
それは忘れそうになっていた愛犬の匂いだった。
ずっとこの匂いが好きだった。
愛犬の体に顔を埋めると、この匂いでいつも癒された。
愛犬がいなくなってから、一番忘れたくなかったのはこの匂いかもしれない。
なのに日が経つごとに、どんな匂いだったのか記憶が遠ざかり、それがとても寂しかった。
バッグの中からその匂いを感じた瞬間、私は思わずバッグの中に顔を突っ込んだ。
必死でクンクンと匂いを嗅いだ。
もっともっと愛犬を感じたい。
ずっと感じていたい。
だがその匂いを感じたのは一瞬で、バッグを開けて空気に触れてしまった事で匂いは消えてしまった。
その後、夫にその事を話した。
夫は、「うん、うん、分かるよ。嬉しいよね」と言った。
私は夫にもあの匂いをもう一度嗅がせてあげたかった。
また愛犬の匂いを感じられますように…そう願いを込めて私はバッグのファスナーを閉めた。
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